関電資金還流問題で飛び交う「元助役が交通遮断した」論を航空写真と地形図で検証する

内浦湾より撮影した高浜発電所

内浦湾より撮影した高浜発電所(筆者撮影)

自民党政治家の名前が出て浮上した「関電被害者論」

 このシリーズ(過去記事はHBOL本体サイトの欄外にリストアップしてあります)では、関西電力資金還流事件について、安倍自公政権与党政治家へ波及したときと同じくして差別扇動と言っても良い「関西電力被害者論」が跋扈したことを厳しく批判してきました。 「関西電力被害者論」では、話題の渦中となった元高浜町助役・森山榮治氏(故人)が強大な権力を持った結果として、この手の裏金事件としては一般的な、地域ボスへの企業からの不正な資金の供与とその資金還流ではなく、反対に森山氏が億単位の金品の贈与を関西電力幹部・社員に対し長年一方的に行ってきたという、大変に風変わりな「設定」になっています。  そしてその根拠として次に挙げるものが流布されてきました。 a)高浜発電所立地において、ある部落*(集落のこと)が立ち退きになり、それが森山氏の利権の源であった b)森山氏の居住する集落(または関係する集落)が、高浜発電所への主要道路にあり、森山氏にたてつけば交通遮断された  前回、これらのうち「a)高浜発電所立地において、ある部落*(集落のこと)が立ち退きになり、それが森山氏の利権の源であった」という説を事実と証拠に基づいて完全に粉砕しました。 【前回記事】⇒「関電被害者論」の根拠、「集落立ち退かせた」説は本当か? 航空写真検証で明らかになった嘘  この「立ち退き論」は、初期にでてきたもので最近は見かけませんが、いまだに時々見かけた、聞いたとの報告が読者よりなされます。この手の嘘は、一度完全に否定しないといつまでも残ります。そもそも否定しても忘れたころにまた持ち出されます。持ち出す側は、事実などどうでも良いのですから当然でしょう。  さて今回は、「立ち退き論」よりも遙かに多く流布されてきた説について論説します。 b)森山氏の居住する集落(または関係する集落)が、高浜発電所への主要道路にあり、森山氏にたてつけば交通遮断された  わたしはこれを「ピケット論」と呼称しています。

事実はどうか 道路封鎖の恐れはあったのか?

 ここでは、前述の関電被害者論の根拠とされるa)b)の二点のうちb)について証拠を添えて論じます。 b)森山氏の居住する集落(または関係する集落)が、高浜発電所への主要道路にあり、森山氏にたてつけば交通遮断された  用地買収や、道路整備の遅れから原子力発電所の建設が遅延したり一時中止した事例としては、後年の大飯発電所1,2号炉建設工事*が挙げられます。 <*大飯原子力発電所建設工事の概要 畑中俊吉,本郷忠夫 関西電力(株) 建設の機械化1974/7 pp.43-47:pp.45の記述では、取り付け道路延長約11kmを道路法第24条に基づく請願工事として、後の福井県道241号線の建設を関西電力が実施した。しかし用地買収に難航したため道路建設工事は大きく遅延し、1972年には発電所を含めた全体の工事が三ヶ月間中止された>  元々道路そのものが無く、集落間は渡船による移動のみであった大島の先端に建設された大飯発電所に比して、例え道路規格が著しく低くても音海まで自動車通行可能な道路が整備済みであった音海半島では、条件は大きく緩和されていますが、少なくとも1,000人/日という1日あたり千人規模の労働者の毎日の輸送と残土処分*の問題が生じる為に工事用の道路確保は重要です。 <*大飯発電所では、物資や人員の輸送などは海路で行っていたが、残土はその量の莫大さから、陸上輸送を必須とした為、取り付け道路工事の遅延がもとでスケジュールが破綻を来し、3ヶ月の工事中止に陥った>  ここでもまた国土地理院地形図と、航空写真を見てゆきましょう。
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航空写真と地形図を紐解けば「嘘」は一目瞭然
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