イラク警察署では、被拘束者への激しい暴行が行われていた(元イラク内務省特殊部隊指令官が筆者に提供)
ウィキリークスによって暴露されたイラク戦争関連文書については、各国のメディアが共同で分析を行った。そうしたメディアの一つ、英紙『ガーディアン』は、ウィキリークスが暴露したイラク戦争関連の文書をもとに「米軍は、イラクの警察や兵士による虐待や拷問、レイプ、殺人に関する何百という報告を放置した」として、関連記事をいくつも配信している。
2010年10月22日付の同紙記事によれば、2009年12月23日付の米軍公電の中で、「イラク軍の将校に捕虜を虐待し、殺害した映像を見せられた」との記述があるという。
その映像には、イラク軍兵士らが捕虜を殴るなどの暴行を加え、銃殺する一部始終が記録されていた。だが、米軍を中心とする在イラク多国籍軍の返答は「調査の必要なし」というものだったのだ。
米軍が残虐な拷問を行う「オオカミ旅団」に引き渡した
米軍がイラク警察・軍による深刻な人権侵害を放置しただけではなく、加担したことをうかがわせる記述もある。
『ガーディアン』紙は2010年10月24日付の記事の中で、米軍公電の2004年11月29日、同30日の記述に、「さらなる取り調べのため」に捕虜をオオカミ旅団に引き渡した、との記述があることを指摘した。
また2015年12月14日付の米軍公電には「幹部将校が被拘束者に対し、『お前はもう家族と会うことはないだろう。お前はオオカミ旅団に引き渡される』と脅した」とも書かれている。
「オオカミ旅団」とは、イラク戦争によるサダム・フセイン政権の崩壊後、米軍が新たにイラク人民兵らをもとに組織、訓練した内務省管轄の治安部隊で、その残虐性から「オオカミ旅団に拘束されるくらいなら、米軍に拘束された方がマシ」と恐れられていた。
筆者が取材した現地人権団体関係者は「ドリルで人体に穴を開け、強酸を流し込む」という身の毛もよだつ拷問を繰り返したあげく、「非拘束者を殺害する」とその蛮行を訴えていた。
ウィキリークスが暴露した文書でも「手首を縛り上げて宙吊りにした状態で、非拘束者を殴り続ける」「野党政治家を誘拐して、大金を請求する」などの記述があった。しかも、これらの報告について当時の駐イラク米国大使だったザルメイ・ハリルザド氏は「批難されるべきことだが、イラクでの政治運動や人々の自由な選択を阻むものではない」とコメントしている(2005年12月12日米軍公電)。
イラク警察や軍による一般市民の不当拘束や拷問・殺害などの人権侵害の横行は、イラク政府に対する人々の反感を招き、その後IS(いわゆる「イスラム国」)が急速にイラクで勢力を拡大した要因にもなった。