極論主義を増長させたコロンビア選挙でのネット世論操作
コロンビアは188人の議員と171人の代表を選ぶ選挙が行われた。どちらの投票でも、
ネット世論操作、極論主義の台頭、選挙に対する市民の知識不足が影響したことが確認された。
ネット世論操作の証拠は2016年に行われた国民投票でもあったとされる。長年にわたって同国を苦しめてきたゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)との紛争終了に向けた和平合意の承認に関するものであり、事前の予想では賛成が多数を占めると考えられていた。しかし過半数が反対という結果に終わった。
WhatsAppなどのSNSを利用して事実を歪曲した情報が拡散されたと考えられている。
この国民投票の後、
極論主義は増長し、右派の発言が強硬になった。そして国民投票の対立がそのまま大統領選に持ち越された。
2018年の選挙では公的機関への不信が高まっていた。とくに
選挙管理関係への不信感が高く、これが投票の棄権に結びついた。
コロンビアでは75%がインターネット利用しており、そのうち87.5%がフェイスブック、87.3%がWhatsAppを利用している。そしてWhatsApp利用者の93%が毎日利用している。その結果、政治家はSNSを利用するようになり、一部はネット世論操作を行うようになった。
2018年の選挙の候補者全員がフェイスブック、ツイッター、YouTubeを使っていた。草の根、政党、政治組織など、ネット上の多数のグループやページがこれらの候補者を支援していた。コロンビアではフェイスブックやツイッターはテレビに次いでニュースを観るのに使われており、徐々に既存のメディアの影響力を越えつつある。その一方で
法制度は旧来のままで追いついていない。
コロンビアの法律ではメディアを使った選挙キャンペーンの全てを明らかにしなければならず、その費用にも制限が課せられている。しかし、SNSには適用されないため、候補者は非公開で自由にキャンペーンを行うことができる。支出に関しては報告の義務があるが、それは候補者に対してだけで支持者などが個人的にSNSで行う活動にはなんの制限もない。そしてこれらに制限を課すことは、個人の表現の自由の兼ね合いで微妙な問題となっている。
2018年の選挙期間を通してネット世論操作が観測された。大統領選の期間中はファクトチェック組織には毎日フェイクニュースの情報が寄せられた。
極論主義がフェイクニュースの発生源になっており、目立ったフェイクニュースは著名な政治家やメディアによって拡散されていた。極右のメディア、フェイスブックページ、ツイッターアカウントが多数の支持を受けて拡散したこともあった。またWhatsAppも積極的に利用されていた。
ネット世論操作の主役となったのは政治的リーダー、候補者、政党など政治関連のアカウントだった。彼らはフェイクニュースを発信し、拡散した。
フェイクニュースがファクトチェックよりも速く広く広がるのは周知の事実だが、コロンビアでは極論化が事態を悪化させた。極右グループはネット上にコミュニティを作り、人気のあるコミュニティは100万以上が参加していた。この中でフェイクニュースが発信され、典型的な
エコーチェンバー現象が起きていた。
極右のサイトは独立メディアなどと名乗ったり、ジャーナリストっぽい見かけにしたりしていた。これらのサイトはフェイスブック上でも多数シェアされた。
WhatsAppも果たした役割も大きいと考えられているが、メッセージが暗号化されているため全貌の把握は困難だ。コロンビアでもブラジルと同じようにWhatsAppを協力し、WhatsAppを通じてフェイクニュースの通報を受け付けることが可能にし、フェイクニュースの拡散の追跡もある程度はできるようになった。しかし、これらが可能となったのは選挙の後だった。
レポートでは市長が学校関係者に特定の候補への投票を強制した、というフェイクニュースの分析が行われている。このフェイクニュースはWhatsAppで拡散し、それからフェイスブックなどでも拡散した。そして市の名前や候補者の名前を変えて、何度もリサイクルされ、その都度多くに拡散されていた。
コロンビアのネット世論操作の特徴はボットのような自動で拡散するものがほとんど観測されていないことである。ほぼ全てが人手によるものだ。
フェイクニュースはメディアで取り上げられ、候補者のアジェンダにも反映された。候補者は誤りを正し、メディアはフェイクニュースと正しい情報の両方を取り上げた。メディアは両方を取り上げることで拡散に加担することになった。選挙関係者の不正に関するフェイクニュースが広がったことで選挙そのものへの不信感が増大させた。悪循環である。
2018年の選挙はコロンビア政府がネット世論操作を明確に脅威として認識し対策を講じた最初の選挙だった。政府はフェイクを指摘し、修正する情報を繰り返し流した。しかし、ネット世論操作には常に表現の自由とのバランスが問題になる。
フェイスブック社はいくつかのネット世論操作対策プロジェクトに資金提供し、地方メディアへの教育を行った。
国内のColombia’s Check や La Silla Vacia といったファクトチェック組織がファクトチェックを行っていたが、許容量を越えるフェイクニュースの量のため多くを取り上げることができなかった。