フェイクニュースとネット世論操作はいかに社会を悪化させるか。中南米の選挙に関する報告書の恐ろしさ
Disinformation in Democracies: Strengthening Digital Resilience in Latin America』がとても参考になる。このレポートは、2018年のブラジル、メキシコ、コロンビアで行われた選挙を取り上げ、ネット世論操作の実態を分析しているものだ。
ラテンアメリカの状況について不案内な方は拙稿をご覧いただくとわかると思う。世界有数のネット世論操作激戦区で候補者は互いにネット世論操作を仕掛けあい、ジャーナリストは果敢にそれを暴こうとしている。ファクトチェック組織もあり、AIを利用の最新技術も導入されている。(参照:”ブラジルの極右大統領、ボルソナロ勝利の影にもあった、「ネット世論操作」”、”ネット世論操作の最先端実験場メキシコ。メディアとジャーナリズムは対抗”、”激動のベネズエラ。斜陽国家の独裁者を支持すべく、暗躍するネット世論操作の実態”)
政権側はサイバー軍需企業からガバメントウェアを購入し、反政府活動家、人権活動家、ジャーナリストおよび対立政党の政治家を狙い撃ち。ジャーナリストが殺害される事件も発生している。2018年はネット世論操作と極論主義の勝利に終わった。2019年は世界で80の選挙が行われる予定で、そのほとんどが国政を左右する重要なものだ。
このレポートには政府、ファクトチェック組織、SNS事業者などが行うべき対策も例示されており、ラテンアメリカを取り上げているが、目的は2019年世界で行われる選挙でネット世論操作の悪影響を排除することにある。そのための包括的なものとなっている。
2018年5月から10月にかけてラテンアメリカのもっとも大きな3つの民主主義国家=ブラジル、メキシコ、コロンビアで選挙が行われ、元首や国会議員などに問題の多い極論主義者が選ばれた。本稿では大西洋評議会が28日に公開したレポート『Disinformation in Democracies: Strengthening Digital Resilience in Latin America』を元にラテンアメリカの選挙でなにが起きたのかを振り返りたい。
選挙期間中はWhatsApp、フェイスブック、YouTube、ブログなどを用いたネット世論操作が行われていた。ラテンアメリカではスマホの台数が人口を上回る国が多く、政治的な話題や情報収集もSNSなどで行われている。ネットはフェイクニュースや偏見の温床となり、極論化が進んでいる。
この地域では経済状況や失業率の悪化、汚職、政治不信、変化への要望などが背景となってネット世論操作を行い安い環境になっていた。人々はフェイクニュースを信じやすく、ヘイトや過度な愛国心に傾倒しやすい。ネット世論操作の広がりにつれてネット世論操作産業も成長した。一方、ジャーナリストたちは果敢にネット世論操作を防ぎ、暴く活動を精力的に行っており、ファクトチェック組織もできている。
一方、この地域では海外からの干渉の影響はあまり確認されておらず、主に国内の勢力によるネット世論操作が行われていた。
ラテンアメリカで起きたことは世界で起きている同種の変化のひとつの例に過ぎないが、先行事例として検証することで今後の対策の参考になるだろう。
日本でも匿名フェイクニュースサイト「netgeek」が集団提訴された。こうしたフェイクニュースサイトやネット世論操作について、大西洋評議会が3月28日に公開したレポート『
世界有数の「ネット世論操作激戦区」である中南米
「極論主義者」の台頭を促したネット世論操作
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。
近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている
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