2018年、メキシコでは大統領選、国会議員選、地方選挙など合計18,000議席が争われた。
774件の政治家に対する暴行があり、152人が死亡、1月9月にかけて法執行機関は1,062件の捜査を行った。メキシコ全体の殺人事件被害者は3万3千人とこれも史上稀に見る多数だった。
メキシコは世界で2番目にジャーナリストにとって危険な国と言われ、2017年には
メディアやジャーナリストに対する事件が507件発生し、12人が殺された。2019年新大統領が就任してからは14人の活動家が殺されている。
2018年の大統領選に勝利したオブラドールの勝因は、汚職や犯罪撲滅キャンペーンとネット世論操作によるものと言われている。
メキシコではニュースをSNSで観る国民がほとんどであり(2018年のロイター調査で90%)、もっともよく利用されるのはフェイスブックである。ラテンアメリカの他に国に比べるとツイッターの利用率も高く普及率は49%で、ロイター調査では人口の23%がニュースをツイッターで確認している。
このSNSの普及を背景にメキシコではネット世論操作産業が盛んで、
「いいね!」やフォロワーの売買が積極的行われており、候補者を始めとして多くがこれらを購入している。(参照:『
ネット世論操作の最先端実験場メキシコ。メディアとジャーナリズムは対抗』、『
世論操作は数十セントから可能だった。NATO関連機関が暴いたネット世論操作産業の実態』)
自動化されたボットが多いのもラテンアメリカの他の国とは異なる特徴だ。
WhatsAppもネット世論操作で積極的に利用されており、他のSNSと連動している。しかしWhatsAppはメッセージングアプリであり、暗号化されているため全貌はつかめていない。
なお、2018年の選挙ではロシアの干渉も危惧された。ロシアのプロパガンダ媒体であるRTやスプートニクは反米の偏った報道を行っていたが、アメリカ大統領選の時のようなサイバー攻撃や大規模なネット世論操作は確認されていない。
The Instituto Nacional Electoral (INE)は選挙に先立って、フェイスブック、ツイッター、グーグルと協力関係についての契約を締結し、2018年2月にはINEとフェイスブック社は共同で市民の参加を呼びかける声明を発表した。フェイスブック社は市民活動への支援とジャーナリストに対するトレーニングの提供を約束し、実行した。同様にツイッター社とグーグルとも具体的な協力関係を進めた。
Animal Politico というメディアと、Verificado2018というメディアを横断したファクトチェック組織がファクトチェックを行っていた。Verificado2018の取り組みは今後のひとつのモデルになるものとして同レポートで大きく取り上げられている。
2018年の選挙は自動化されたボットの威力と対抗することの困難さを見せつけられた一方、Verificado2018の活躍が目立ったものとなった。
レポートでは政府関係機関の対策、有権者の努力、ファクトチェック組織Verificado2018やメディアリテラシー向上など総合的なアプローチによってネット世論操作に対抗することが重要であるとしている。