350万円の渡航費を払って来日、借金で帰国できない
実習先の工場の前で受け入れ機関の管理組合の人(左)と、グエン・ティ・トゥイ・リンさん(中央)
リンさんは、渡航費350万円をブローカーから借金して送り出し機関に支払い、日本に来た。通常、渡航費用は100万~150万円が相場で、彼女は最初に契約した送り出し機関に150万円の渡航費を払った。しかし、その会社はお金だけ持ち逃げして倒産してしまった。
150万円の借金を返さなければならなくなったリンさんは、さらにブローカーから借金をして別の送り出し機関に200万円を支払って日本に働きに来た。
350万円という借金は、平均収入が日本の10分の1程度のベトナムでは、よほどの高給取りでもない限り返済できる額ではない。彼女はシングルマザーで子どもが3人いるので、借金を残して帰国するわけにはいかなかった。
失踪後は派遣会社に登録して福島県の工場で何か月か不法就労をしたが、そこでも途中から派遣会社に賃金を未払いにされた。その後仕事をやめて名古屋の友人宅に身を潜めていたが、2016年春に東京入国管理局に出頭し収容されてしまった。実習先の5か月分の残業代と逃げた月の賃金、福島の工場の賃金2か月分は未払いのままだった。
収容後に「法テラス」を利用して弁護士に相談し、広島の実習先に未払い賃金を文書で請求してもらったが、会社は「未払い賃金はありません」と言って支払いに応じなかった。会社の電話番号を知らなかったので、リンさんが技能実習生の管理組合に問い合わせたが、管理組合は助けてくれるどころか電話番号を教えることを拒んだ。
未払い賃金も仮放免も認められず2年9か月の収容所生活
ベトナム南部の農村。グエン・ティ・トゥイ・リンさんも南部農村の出身だ
リンさんには裁判を起こすお金もなく、未払いの賃金は2年で時効となって消失した。失踪前に入管に相談し実習先の変更を申し出ることもできたが、そのような制度は知らなかったし、当時は日本語をほとんど話せず、誰に救済を求めたら良いかもわからなかった。
「両親は高齢で子どももまだ小さいから、借金取りから暴力は受けていない。でも私が帰ったら暴力を振るわれるかもしれない。最初から逃げようと思って来たわけじゃない。逃げた自分が悪いのはわかっているけど、今はどうしたらいいかわからない」
ベトナムに戻ったら借金取りに何をされるかわからない。日本で働いて借金を返せなければ帰るに帰れないリンさんは、入管に収容されたまま何もすることができずに2年9か月が過ぎた。入管に一時的な釈放を求める「仮放免申請」をしているが許可されず、いつ強制送還されるかと怯えながら、今も収容されている。