裁判権だけじゃない。あまりに不平等な日米地位協定の実態<伊勢崎賢治氏>

――南スーダンPKOで、戦闘に巻き込まれたら危なかったですね。 伊勢崎:あのときは、たまたま巻き込まれなかっただけ。もし戦闘になっても撃てないし、撃ってしまって民間人に被害が出るなどしていたら大問題になっていました。 ――自衛隊を裁く法律がないことは、世界に知られているのですか。 伊勢崎:ほとんど知られていません。昨年の12月にソウルで国連の会議がありまして、日本を含む20か国が参加しました。PKO派兵国の外務省もしくは防衛省の担当局長レベルが揃いました。僕はその会議で講演をしてくれと言われて行ったんです。そこで「日本の自衛隊には、海外でのいわゆる軍事過失、軍事犯罪、それどころか一般過失すら裁く法律がありません。戦後ずっとです」と言ったら、会場全体が息を呑んだのです。 ――「どういうこと?」だと。 伊勢崎:「法律がないなんて、意味がわからない」と。「軍法もないのに軍隊として地位協定で特権も与えて海外に出すということはどういうことだ」と。ということは、日米地位協定で互恵性を求めることなどできない。自衛隊の過失も裁けないのに、米国で自衛隊が事故や犯罪を起こしたらどうするのか? 互恵性なんて無理だという話になってくる。 ――自衛隊に関する国内法の整備を先にしないと、地位協定改定はできないということですね。 伊勢崎:さらに言えば、国内法の整備をするには憲法を変える必要がある。憲法9条2項は交戦権を否定し、自衛隊は「戦力」ではないとしています。「戦力」ではないので軍事犯罪は想定できず、それを裁く法律も作れない。しかし国際的には、世界で5本の指に入るともいわれる「戦力」を持つ軍隊を「戦力ではない」と称して海外に出し、戦争犯罪も裁けないというのはあり得ない。 ――憲法9条を、どのように変えたらいいとお考えですか。 伊勢崎:「日本の領海領空領土内に限定した迎撃力を持つ」、そして「その行使は国際人道法に則った特別法で厳格に統制される」ということを明記すべきでしょう。 ――まず憲法9条2項を変えて、自衛隊の活動を裁く国内法を整備し、そのうえで地位協定を改定するという順番ですか。 伊勢崎:そうです。それなら米国は何も文句が言えないでしょうね。 【伊勢崎賢治氏】 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。’00年より国連PKO幹部として、東ティモール暫定行政府の県知事を務める。’01年よりシエラレオネで国連派遣団の武装解除部長。’03年から、日本政府特別代表としてアフガニスタン武装解除を担った。紛争地での豊富な実務経験を持ち、”紛争解決請負人”とも呼ばれる 取材・文/北村土龍 写真/時事通信社 伊勢崎賢治 ― 大至急、[日米地位協定]を改定せよ! ―
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