自衛隊の法的地位を直視しない「自衛隊明記改憲論」は欺瞞である

軍事法廷のない自衛隊が、現地で事件・事故を起こせば外交問題に!?

ジブチ産経

ジブチに派遣される自衛隊員

 1991年のペルシャ湾への掃海艇派遣依頼、カンボジア、イラク、南スーダンなど海外派遣を重ねてきた日本の自衛隊。「戦力ではない」という建前で派遣されていた自衛隊だが、近年、国連PKO(平和維持活動)の任務が文民保護のための戦闘も伴うものとなり、その「現場」と自衛隊を巡る日本の「国内事情」の乖離が大きくなってきた。 「国際法的には、自衛隊は軍隊です。ですからジュネーブ諸条約などの国際人道法の適用対象になるのですが、日本政府はそれを認めようとしません」と指摘するのは、岩本誠吾・京都産業大学教授。 「現代の戦争では、軍人が敵対勢力に拘束された場合でも、拷問・虐待・殺害をされないよう国際人道法で捕虜としての人道的待遇が保障されます。ところが日本では、安保法制の国会審議で当時の岸田文雄外務大臣は辻元清美議員の質問に対して『自衛隊は捕虜になれない』と答弁しているのです。これを認めてしまうと、憲法問題になるからでしょう。  しかし、国際人道法を適用せず、捕虜になれないということは、最悪の場合は死刑となる恐れもあります。国際人権法の視点からすれば自衛隊は軍隊そのものであり、自衛隊員も捕虜としてその待遇が保障されると観るべきでしょう」

PKO派遣しても、迷惑がられる可能性も

 一方、PKOの任務中に自衛隊員が事件・事故を起こした際の法の空白も外交問題となり得る。 「PKOでは受け入れ国に裁判管轄権はありません。混乱状態にある国できちんとした裁判はできないだろうからです。その代わりPKO部隊の派遣国で裁くことになるのですが、日本の場合は軍事法廷がありません。海外に派遣された自衛隊員の事件・事故を裁くのは、一般の裁判所となります。  故意による死亡事件は殺人罪で、刑法の国外犯の処罰規定が適用されますが、誤射などの過失致死罪の場合は刑法の国外犯規定がないので、現状の日本では裁けないのです」  万が一、誤射や事故が起きてもその責任を追及できなければ現地での信用を失い、強い反発を買うことは必至だ。PKO全体としても、自衛隊が参加すること自体がリスキーとなる。せっかくPKOに自衛隊を派遣したというのに、むしろ迷惑がられることになりかねない。
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自衛隊に現場で対応させるのには、もう限界がある
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