――そのことは、多くの日本人が知りませんね。
朝鮮国連軍の後方司令部のある横田基地には、日本と米国の旗だけでなく国連の旗も立つ
伊勢崎:この朝鮮国連軍の実態はほぼ米軍と韓国軍で、朝鮮国連軍地位協定と日米地位協定は連動しています。日米地位協定の場合、米軍は自動出撃できます。日本への事前通告の義務さえなしにです。されればラッキーという。これは世界で唯一のこと。朝鮮国連軍地位協定では、横田基地だけでなく嘉手納基地などの在日米軍基地が後方支援として指定されています。もし朝鮮国連軍が北朝鮮を攻撃すれば自動的に、日本は北朝鮮にとって合法的な攻撃目標となる。これを「自動交戦国」と言っています。日本はそれを拒否できない。
――情報すらもらえないというのは不安ですね。
伊勢崎:平時である今でもそうですよ。昨年4月に、沖縄の嘉手納基地にカナダ空軍やオーストラリア空軍の哨戒機・輸送機などが飛来しました。朝鮮国連軍としての任務だったのですが、日本には何の情報ももたらされていません。
――その点、他国の地位協定は違うんですか。
伊勢崎:例えばトルコは、NATO軍の一員として地位協定を結んでいますが、米軍がイスラム国への空爆を行うためにトルコ国内の基地使用を求めたところ、これを拒否しました。しかしだからといって、両国の関係が悪化するわけではない。「主権」のある国家とは、そういうものです。
――ジブチとも地位協定を結んでいるというのは、意外ですね。
伊勢崎:ソマリア沖の海賊に対処するため、自衛隊が駐留するジブチの政府と結んだもので、’09年に成立しました。実は日本は、ジブチに対しては不平等条約を押しつけているんです。
――日米地位協定の「被害」を受けている日本は、ジブチでは逆に「加害国」となっていると。
伊勢崎:日ジブチ地位協定では、すべての刑事裁判権が日本側に委ねられています。そして、自衛隊が現地で起こしたすべての事件や軍事的な過失について、ジブチの刑事裁判権から免責されるとされているんです。これはまさに治外法権そのもの。国家の独立、主権の根幹にかかわる問題です。当時、これについて後に民主党政権で防衛大臣となる森本敏氏は、「日本の自衛隊がジブチにたいへん重く扱われている」と評価しています。主権を奪われて米国の言いなりになる一方で、ジブチの主権を奪っている。日本はむちゃくちゃな“国際的詐欺”をしていることに、政治家も気づいていない。
――ジブチで自衛隊が事件や過失を犯した場合、日本の法律で裁くことはできないのでしょうか?
伊勢崎:他国の場合、軍事過失や軍事犯罪といったものは、国際人道法に基づいて何が違反行為か定めているわけです。しかし、日本にはそれらを裁く国内法がないのです。