レーダー照射問題、防衛省主張の妥当性を改めてファクトチェックしてみた

1/21防衛省最終報告の分析。防衛省主張をファクトチェック

1)日時について 日韓ともに相違ありません。 2)場所について 本連載第7回で指摘したとおり、場所については大きな相違があります。 日本能登半島沖 日本のEEZ内 韓国独島(竹島)の北東200kmの日韓暫定水域内  日韓両国ともに詳細な座標の発表がなく、とくに日本側発表では殆ど位置がわかりません。ただし、国内報道では、大和堆付近という情報が複数流れています。しかし国内報道では、座標が推定でどこであるかを示した図は報じられていないようです。これはどういうことでしょうか。  再掲ですが、ハンギョレ新聞が報じた推定座標を示します(参照:S. Korean naval vessel’s targeting radar locking onto Japanese plane turns into diplomatic issue Posted on : Dec.24,2018 16:08 KST Modified on : Dec.24,2018 16:08 KST)。韓国側報道ではほぼ全てが引用と同等のもので、国内ネトウヨブログなどで流通しているものはその剽窃による改変です(ネトウヨブログに引用の要件を満たしたものは見当たらなかった)。
ハンギョレ新聞が報じた推定座標

ハンギョレ新聞が報じた推定座標(出典:Korean naval vessel’s targeting radar locking onto Japanese plane turns into diplomatic issue Posted on : Dec.24,2018 16:08 KST Modified on : Dec.24,2018 16:08 KST)

この図での推定座標は、竹島の北東200kmの日韓暫定水域とも能登半島沖の「日本が主張するEEZ」内とも合致し、大和堆周辺でもあります。多少の誤差はあれ、この図がもっとも正しく事態発生の座標を示しているのでしょう。  ではなぜ、日本政府は日韓暫定水域であると発表しないのでしょうか。これだけで無意味かつ極めて不健全に沸騰した日本国内世論は大きく変わります。 ここに、日本のEEZを含む日本の領海概念図を示します(出典:海上保安庁)。
日本の領海等概念図

日本の領海等概念図 ※本概念図は、外国との境界が未画定の海域における地理的中間線を含め便宜上図示したものです(海上保安庁Webサイトより)

 まさに「威風堂々」したもので、東亜の海の覇者、ロシアも中国も韓国も北朝鮮も台湾も何も存在しません。ただ合衆国とフィリピンとの競合水面だけが削れているのが、日本らしいシオラシサなのでしょうか。わたしはこの図を見て爆笑してしまいました。当然ですが、これが「日本の主張するEEZ」です。なぜか、合衆国とフィリピンのみには遠慮しています(※理由は後述)。  日本政府による領海、EEZに関する発表は、ほぼ全てこの図面に即しています。日本のマスメディアも近年、この誇大妄想の産物と言える図面に立脚して「日本のEEZ」と報じています。ただしくは、「日本の主張するEEZ」と報ずるべきものです。  さてここで、Wikipediaで使われている日本のEEZを引用します。(出典:Wikipedia「日本の排他的経済水域」
日本の排他的経済水

Gugganijによる日本の排他的経済水域。濃色が日本のEEZで、淡色は係争海域、中間色は日韓共同開発水域(via Wikimedia Commons)

 見事にごっそり削れています。これらは、日露中台の係争水域、日韓係争水域によるもので、日米、日比については国境線が確定しているために日本の主張するEEZにおいても中間線が確定しています。前述したように遠慮している訳ではないのです。図では日韓暫定水域の扱いが、九州西方海上では日韓共同開発水域として、鳥取県北方の日本海が係争水域として表示されていますが、これは「漁業に関する日本国と大韓民国との間の協定」(日韓漁業協定)における扱いの違いによるものと推測されます。  さて、いくら日本政府が誇大妄想の産物たる領海概念図を国内向けの振りかざしたところで、漁業関係者など現場で経済活動をする人々には命と財産にかかわることです。そのため、鳥取県庁は、正確に日韓暫定水域を示しています。これも再掲します。(出典;鳥取県庁
日韓暫定水域図

日韓暫定水域図 。日韓暫定水域のうち、北部の水域(鳥取県町Webサイトより)

 なお、参考のために全漁連が公開する「日本の200海里水域概念図」をご紹介します。 (出典:全漁連
日本の200海里水域概念図

日本の200海里水域概念図(全漁連Webサイトより)

 安倍晋三氏の手によって今や無きものにされつつある日露領土問題について、日本政府によるこれまでの強烈な指導に従った痕跡が無残で惨めです。一方で、日韓、日中暫定水域については正確に記載してあります。  領土問題が絡むため、国家による係争領域についての発言はたいへんに慎重であるべきで、保守的になるのはやむを得ないものがあります。しかし、国家間の条約、協定によって成立している領域についてはその旨表現すべきでしょう。「日本が主張するEEZ内の日韓暫定水域」とでも表現すべきことです。そもそも、日本国憲法第98条第二項には条約遵守義務が明記されています。まさか協定は除外と言わないでしょうね。 ※※※※※※※※※※※※※※※※ 日本国憲法第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。 ※※※※※※※※※※※※※※※※  日韓暫定水域や日韓漁業協定で検索すると大量のネトウヨブログで検索汚染が生じており、日韓漁業協定は失効しているかの流言飛語が大量に目に付きますが、日韓漁業協定は2016年に相互入会い(いりあい)の許可制(第二条)の前提となる操業条件等の決定(第三条)をおこなう日韓漁業共同委員会の協議が決裂し、入漁許可手続(第四条)が執行できない状況が続いているだけで、協定そのものは有効です。したがって相互入会い措置をとらない水域(第九条)すなわち日韓暫定水域は有効です。この日韓漁業協定に署名したのは、当時の外相であった自由民主党の高村正彦氏です。  このように、今回の日韓軍事インシデントにおいて、発生地点について日本政府は殆ど意味をなさない情報発信に終始し、国内報道もそれに翼賛したというほかありません。日本政府は、韓国政府発表の竹島北西200km、日韓暫定水域内という主張に一切反論していませんので、発生地点は韓国政府発表が正しいと断定して良いでしょう。 3)主体について 相違なし 日本側 海上自衛隊P-1哨戒機 韓国側 韓国海軍第1艦隊旗艦 広開土大王、韓国海洋警察 三峰号 4) 何が起きたか この項目では、日韓で完全に対立しています。 日本側:通常の哨戒飛行中に突然、広開土大王が火器管制レーダーを照射した。 韓国側:北朝鮮遭難漁船の捜索救難(SAR)活動中に日本のP-1哨戒機による低空接触を受けた(12/28の日本側による外交問題化後、P-1による威嚇飛行であったと加えている)。 5) どうしたか  12/28公開映像では、P-1は、戦術士の機長への報告後、離隔(避退)行動をとっていますが、いわゆる「イルミネーター」照射を受けたときの避退行動ではありません。この点について日本側報道等に著しい誤解と誤報が見られます。また同時に広開土大王に対して三回、周波数を変えて無線での呼びかけを行っています。
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不誠実かつ不自然な防衛省の説明
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