シリアで拘束された安田純平氏の体験は“宝の山”。今後、ここからさまざまなものが見えてくる

現在を否定するため、過去を否定する毎日

縮小:安田純平の40か月

『シリア拘束 安田純平の40か月』は、今後さまざまな事実を検証していくうえでの重要な資料となる

 過酷な監禁生活で、なぜ安田氏はかろうじて正気を保てたのだろうか。巨大収容所に移された当初まで、安田氏はノートに日記をつけ、起きた出来事や心情などをつづっていた。  解放されてから詳細に過去を語れるのも、2017年夏まで日記を書いていたからだ。書く作業によって監禁状態で精神を保っていた側面もあるのだろう。何かを考え、頭のなかで自己対話し、何らかの映像を思い描いていたはずだ。安田氏が振り返る。 「過去のことを考えると、どうしても否定的になって精神的につらくなるだけです。特に身動きを禁じられてからは、なるべく将来のことを考えるようにしました。  解放されたら、どうやって彼らの正体を突き止めようか。また、今回のことを今後どのように活かして次につなげようか、といった仕事に関することをずっと思い巡らせていました。  昔を思い出せば、苦しくなるばかり。今現在おかれた状況を否定するために、過去のあらゆるものを否定するという作業の連続でした」  安田氏の政治や紛争のレポートもさることながら、精神性を保つために実行した内容を人々に伝えることも、大切かもしれない。 <取材・文/林克明(はやし まさあき・ジャーナリスト> 業界雑誌、週刊誌記者を経てフリーに。著書に『ブラック大学早稲田』(同時代社)不当逮捕 築地警察交通取締りの罠』(同時代社)、『プーチン政権の闇』(高文研)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)など)
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【安田純平氏、帰国後初の講演会】
「シリアから生還した安田純平氏が語る 1×1.5mの独房で息遣いも許されぬ監禁生活――『スラムダンク』『地球の歩き方』に救われた日々」
講師:安田純平/日時:12月15日(土)14:00~16:45/場所:雑司ヶ谷地域文化創造館第2会議室/資料代:500円/主催:草の実アカデミー
http://kusanomi.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/115-14bd.html#more

シリア拘束 安田純平の40か月

2015年6月に取材のためシリアに入国し、武装勢力に40か月間拘束され2018年10月に解放されたフリージャーナリスト・安田純平。帰国後の11月2日、日本記者クラブ2時間40分にわたる会見を行い、拘束から解放までの体験を事細かに語った。その会見と質疑応答を全文収録。また、本人によるキーワード解説を加え、年表や地図、写真なども加え、さらにわかりやすく説明。巻末の独占インタビューでは、会見後に沸き起こった疑問点にも答える