シリアで拘束された安田純平氏の体験は“宝の山”。今後、ここからさまざまなものが見えてくる

「ムチ打ちされたほうがましだ」と思うほどの精神的な拷問

縮小:差し入れ本

拘束中に差し入れられた本。これらを読みながら、安田氏はイスラム教に関する知識を習得していったという

 通常の拘禁施設では1日に1回は運動時間があり、独房から出て歩いたりして体をほぐすことができる。また、たまに面会もある。それでも精神に支障をきたし、いわゆる“拘禁病”になることが多い。  この巨大収容所では、運動場もなく運動時間もなかったという。もちろん、弁護士や家族との面会もない。日本語も聞いたり話したりすることはできなかった。  もっともつらかったのは、巨大収容所で強いられた“奇妙なゲーム”だったと安田氏は言う。 「独房を移動させられたのですが、その場所のトイレは彼らが囚人を尋問している部屋のとなりでした。音を忍ばせてトイレに入ると盗み聞きしているのではないかと疑われる可能性があるので、あえて水の音をたてたりしました。  それは裏目に出てしまいました。隣の部屋で尋問されていた人とは別の囚人を尋問部屋に引き出し、見せしめのように拷問を始めたのです。叫び声が聞こえてきました」(安田氏)  すべてがこの調子で、彼らは具体的に何をしていけない、あるいは何をしろと安田氏に命令を下さず、究極の“忖度”を求めてきた。そして分かったのは「いっさい音をたててはいけない」ということだった。  それは次第にエスカレートし、指を曲げる音もダメ、寝返りの音もダメ、鼻をすする音もダメ……。1メートル×2メートルくらいの独房に押し込められたときは、通路に監視カメラがあるため実質1メートル×1.5メートルの範囲内で体を曲げて過ごしていた。  このような過酷な状況は5か月近く続いたという。そのため安田氏は、絶食してハンガーストライキをした。さらに、それでも「動いてはいけない」という拷問に耐えられず、安田氏は拘束者たちに頼み込んだ。 「イスラムにムチ打ち刑がありますが、『24時間身動きできないより、殴られたほうがましだ。百叩きでも二百叩きでもやってくれ』と」(安田氏)
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拘禁生活で正気を保てた理由
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【安田純平氏、帰国後初の講演会】
「シリアから生還した安田純平氏が語る 1×1.5mの独房で息遣いも許されぬ監禁生活――『スラムダンク』『地球の歩き方』に救われた日々」
講師:安田純平/日時:12月15日(土)14:00~16:45/場所:雑司ヶ谷地域文化創造館第2会議室/資料代:500円/主催:草の実アカデミー
http://kusanomi.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/115-14bd.html#more

シリア拘束 安田純平の40か月

2015年6月に取材のためシリアに入国し、武装勢力に40か月間拘束され2018年10月に解放されたフリージャーナリスト・安田純平。帰国後の11月2日、日本記者クラブ2時間40分にわたる会見を行い、拘束から解放までの体験を事細かに語った。その会見と質疑応答を全文収録。また、本人によるキーワード解説を加え、年表や地図、写真なども加え、さらにわかりやすく説明。巻末の独占インタビューでは、会見後に沸き起こった疑問点にも答える