あるムエタイ少年の死が浮き彫りにするタイ社会の問題

ムエタイ少年の死が浮き彫りにするタイの社会問題

 バンコクの2大スタジアムがやはりファイトマネーが大きいが、小さな試合もタイ各地で開催される。ファイトマネーは小さくとも、勝ち続ければ少年でも月に3万バーツほど(約10万円)は稼げるという。高卒がコンビニエンスストアで働いても月に1万バーツ(約3.5万円)を稼げるかどうか。それと比較すれば収入は大きく、夢がある。  小さなイベントは多いので、選手の出場機会も多くなる。悪質なプロモーターの息がかかったジムでは、規定未満の日数で次の試合に出場させることもある。しかも、名前を変えるなどの手法で行うため、記録に残ることがない。  しかし、選手は試合に出ればカネが入る。だから、いやいや出ているわけでもない。強くなって勝てれば世界に出ることも可能だ。そうなれば数万バーツどころか、数千万の収入になるかもしれない。ただ、脳に重大なダメージを受け、言語障害や知能の低下、いわゆるパンチドランカーになってしまう元選手もタイには非常に多い。  現在検討されている少年選手の出場年齢規制などは、一方では子どもたちのための適切な措置でもあるし、一方では少年とその家族の首を絞めることにもなる。今回のムエタイ少年の死の報道は、タイの社会問題を浮き彫りにする事故でもあるのだ。
ムエタイ2

タイ国内でチャンピオンになるだけでも大きな収入になるが、日本などに招待されればなおのこと大きな利益が期待できる

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)> たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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