このギャンブルの存在が、先の少年選手の死にも関係していると考えられる。報道ではその会場がギャンブルの可否で認可されていたかどうかは不明だ。また、ギャンブル会場の認可がなくても、イベントとしてのムエタイ開催は問題ない。そして、そういったイベントでは隠れてギャンブルが行われる。最早公然の秘密であるため、タイでは一切報道されない。これを報道すると、警察の怠慢なども疑われるからだ。
ムエタイ・ギャンブルは賭け方が難しく、そう簡単にできるものではない
そのため、推測になってしまうのだが、審判がなぜ止めなかったのかという批判に関しては、止め「なかった」のではなく、止め「られなかった」のではないか。観客が数十人だったとしても、一斉に蜂起したら審判団や運営関係者だけでは太刀打ちできない。タイは銃社会でもあり、カネの恨みは強く、後日になって殺されることだってある。その恐怖もあったのではないか。
先に述べたようにムエタイはギャンブルとして成り立つので試合を運営すれば、関係者たちにも大きな利益をもたらす。利益があればファイトマネーも発生する。選手やトレーナーは貧困層が多い。タイでは現代的な普通の生活をすることのできる給与を得るには大卒以上の学歴がなくてはならない。しかし、貧困層はそもそもその日の糧にすら困る。タイの格差社会は世界的に見て異常なレベルでひどく、富裕層は常に富み、貧困層は頭を押さえつけられ、這い上がることは困難だ。
そんな中で、男児が学歴不要で稼ぐチャンスがあるとすれば、違法なものではドラッグの売人、売春もあるが、合法的に稼げるのはムエタイしかないとも言える。
亡くなった少年もそうだが、ムエタイのトレーニングを始めるのは8歳が多い。少年選手や保護者などに話を聞くと、5歳から始めた者もいた。死亡事件が起こる以前に書かれていたタイ国内のメディアによれば、現行法規だと12歳未満は公式戦は認められていないが、9歳からイベント試合の出場は許されているとあった。そんな9歳から12歳の選手はタイ国内に10万人の選手がいるという。
タイの就学年齢は日本と同じで、小2小3になっていよいよ家計の厳しさを周囲と比較して知ることになり、空いている時間をムエタイの練習に費やし、家族を助けたいと考え始める。それがちょうど8歳くらいなのだ。
とはいっても、トレーナーや選手はギャンブルとは無縁で、あくまでもファイトマネーを稼ぐために戦う。選手らに違法な闇ギャンブルについて訊ねても、ほとんどの者がまったく状況を把握していない。ギャンブルはあくまでも周囲の大人たちの遊びに過ぎない。
そして、そんな運営やプロモーターらがギャンブラーのために試合を用意する。そこで発生するファイトマネーが選手らの収入になる。いわば持ちつ持たれつの関係だ。