ムエタイ選手のほとんどが貧困層出身で、家族と生活を背負っていてハングリーさがある
タイ国内におけるムエタイの試合で、2018年11月10日、13歳の少年選手がノックアウトにより死亡する事故が起こったとタイ警察が発表した。死因は脳幹部の出血だったという。さすがのタイでも少年選手の出場に対する規制などの声が上がっている。
タイの観光スポーツ相もすぐに法規制の動きを見せ、年齢制限やヘッドギアの着用義務などの考えを語った。しかし、一方では関係者たちがムエタイの弱体化を懸念し、反対している。ムエタイはタイの国技であり、世界中で格闘技が人気になっている中、ムエタイが注目されなくなることを恐れるグループもいるのだ。
日本のキックボクシングの関係者は次のように語る。
「タイ国内のムエタイの規則では選手の試合と次の試合までの出場停止期間がかなり短い。その分、出場回数が多くなり、タイのムエタイ選手らの経験値は高い」
日本の格闘家よりも実戦経験が多いことがムエタイ選手が強い理由でもある。亡くなった少年選手も8歳のデビューから亡くなるまでの間に推定で170試合を経験していたという。
なぜこんなにも試合回数が多いのか。また、幼くしてムエタイの大会に出場しているのはなぜか。それから、なぜ審判はこんな状態になるまで止めなかったのか。いろいろな疑問があるが、実はムエタイは貧困と人々の欲望に密接に関係している。だからこの死亡事故は起こるべくして起こったし、今回は報道されたから世間に知られることになったが、埋もれてしまっている事件も少なくない。
ムエタイは日本のメディアでは国技であることから相撲と比較されたり、タイ国内でも親しまれているスポーツであると報道される。これは大きな間違いだ。
国技であることから、試合は伝統音楽の中で進められる
ムエタイはギャンブルの対象として成り立っていて、一般層はムエタイにあまり興味を持っていない。
本来タイはギャンブルは違法であり、取り締まりが厳しい。女性や中流階層以下の人々には日本で言う「おいちょかぶ」、欧米の「バカラ」や「ブラックジャック」にルールが似たトランプを使った賭け事が人気だ。これによって、タイは取り締まりの一環もあってか、トランプは商品棚に並べて売られていない。それくらい厳しい。
しかし、ムエタイや闘鶏、闘魚、それから競馬はタイの伝統的・文化的な側面があることから、会場が申請することでその中でのギャンブルは認められる。バンコクでは「ルンピニー・ボクシングスタジアム」と「ラチャダムヌン・ボクシングスタジアム」が知られている。
外国人はムエタイ観戦を観光のひとつとして楽しむが、タイ人がスタジアムを訪れる場合、関係者以外のほとんどはギャンブル目的であると言っても過言ではない。ムエタイであれば興行1回で運がよいと数万バーツを儲けることができる。タイでは大卒が外資系に勤めて5万バーツ(約17万円)ももらえれば高給取りである国。儲けはタイ国内でできる違法合法のギャンブルの中でも比較的大きい。