肱川水害はダム最優先の治水行政による行政資源の配分の失敗の産物

ここでも治水整備の遅れが見られた矢落川

 東大洲を未曾有の洪水で襲った越流箇所を探して、肱川水系の危険箇所として長年指摘されてきた矢落川と肱川の合流点に向かいます。ここは、東大洲の北に位置し、予讃線(海周り)が、内子線(新線)と合流する地点にあたります。  肱川河川敷に整備された公園は、洪水ではぎ取られて再建中ですが、肱川の堤防はよく耐えています。
肱川と矢落川の合流点

肱川と矢落川の合流点河川敷から肱川右岸(東大洲)側を望む 河川敷の運動公園などは全て洪水で剥ぎ取られているが、堤体越流はここまでで認められない。左奥の緑色の橋は予讃線鉄橋2018/10/28撮影

 一方で矢落川に目を移すと治水事業の大変な遅れが目立ちます。まず、河口部が閉塞しており、予讃線鉄橋も洪水時に矢落川を閉塞します。普通はかけ替えられているべきものです。
予讃線鉄橋

肱川と矢落川合流点の河川敷より予讃線鉄橋を望む。ちょうど観光列車である伊予灘物語が通過している。 矢落川河口に架かる鉄橋だが、明らかに低く、河口も閉塞している。2018/10/28撮影

 次に矢落川の堤防に登ると、東大洲川の堤高が著しく低くなっています。明らかにここから矢落川が氾濫し、東大洲を飲み込んでいます。  もちろん、矢落川が肱川によってバックウォーターを起こせば東大洲地区も対岸の五郎地区も洪水に見舞われますので、東大洲側の堤防を故意に低くし、農地を遊水地としてほかを守るという考えがあります。しかし、その場合必須となる東大洲側内陸の二線堤の堤高が低すぎて越流してしまったことがわかっています。
矢落川左岸より上流

予讃線を渡って、矢落川左岸より上流を望む。 明らかに堤高が著しく低い。この箇所は長年矢落川の氾濫最危険地点とされてきており、今回もここから越流し、東大洲を泥の海にした。現在、年度内完成予定で堤高を嵩上げしている。奥に見えるのは、都谷川(とやがわ)樋門。2018/10/28撮影

 肱川大水害直後から、大洲市から下流のこのような堤高の低い箇所全てで年度内完成を目指して堤防のかさ上げ工事をしていますので、仮に遊水地としていたとしても整合性がとれません。  このような堤防の途中に堤高の低い部分や無堤部があるのは肱川の特徴で、どのような立派な堤防を作ってもその部分が破られれば意味がありません。遊水地として農地などを故意に水没させる場合は、二線堤ないし嵩上げが内陸側に必須となります。  バックウォーターによる氾濫が予想される場合、意図的に農地に氾濫させて遊水地とすることは古典的な治水の手法ですが、その水が市街地や集落に流れ込んでは意味がありません。高台移転や嵩上げのできない東大洲の場合は、内陸の二線堤が必須となりますが、その備えが十分でなかったことが、被害を大きくしています。  また、矢落川の河道の荒廃と閉塞は目立っており、山鳥坂ダム建設の議論の際に指摘されてきていた河道整備、特に矢落川の河道整備を怠ってきたと指摘する他ありません。
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