店内にいてもTSUKIを眺めているような気分を演出、その2
さて今回の本題は、3)の「お客様の回転率を下げる」だ。
お客様の回転率を下げる=お客様にゆっくり過ごしてもらう。当店に来るお客さんの中には、開店の18時に来店されて、24時の閉店までいる方も多かった。お通しの300円とビール代の500円の800円だけで6時間居続ける例もあり、そういう時にはそいつをこうイジる。
「店の売上に全く貢献しないとんでもないヤカラだ。さっさとけえってくれ~、貧乏人め~」
そう言いながら、本当にお金がなさそうなら、そっと料理や酒をサービスしてあげる。こうして口とは裏腹に初来店の方との信頼感を数時間で作り上げていた。手持ちのお金がなくたって、せっかく店に来てくれたんだからゆっくりしてくれたらいい、それが俺の感謝表現だった。
大きなターミナルの池袋駅とはいえ、歩いて15分もかかる場所に店はあった。そのため、回転率を高めたところで次々とお客さんが来るわけでもない。通りがかりで入ってくれる近所の一見さんは月に1人程度。わざわざ遠くから来てもらったらゆっくりくつろいでもらったほうが、結果的には売上にも貢献する。
世間では2時間制にしてお客さんを追い出す店も多いようだし、その理由もわかる。そういう店主のつぶやきをネットで検索すると、「2時間を超えてくると注文のペースが急激に落ちる。暇になって店員に絡んだりして迷惑ということもある。お客を入れ替えて、新規客からお通し代を取ったほうがいい」。まさにその通りだと思う。
それでも俺が回転率を上げようとしないのは、くつろいでもらって本音を語り出してほしいからだ。先述のように「貧乏人め~」とイジッた後も、そのあとに折を見て「何か求めて、何か聞きたくて、ここまで来たんだよね。どうしたのかな?」と必ず聞いた。どんなお客さんにも聞いた。退職者量産バーと言われた所以だ。
注文に追われる俺と、何かを求めて訪ねてくるお客さんと言葉を交わせるタイミングまで、時間を潰してもらわねばならない。そのために以下の要素を用意していた。
●お客さん同士をつなぐ
●長居できる言い訳をつくる
ということだ。