次のドリンクを促さないどころか、「追加注文はやめてくれ~!」という店
店内にいてもTSUKIを眺めているような気分を演出
てなことで、当店は来店客数をあまり増やしたくなく、想いのある人だけに来てほしかったので、週休1日から徐々に週休3日にし、メニューも徐々に減らしていった。そもそも、お客さんに追加注文を促すのはイヤらしいと思っていた。
かつてサラリーマンとして働いた小売の現場では、俺は婦人雑貨担当だった。「目標」という名のノルマが会社上層部から社員一人一人に落とし込まれてくる。ハンカチ1枚買いに来るお客さんにさえ、「追加関連販売」と称してウォシュレット便座・エアコン・スーツ・コート・保険まで売ろうとしたものだ。
今考えるとトンデモネタだが、みんな懸命だったし、そういうものだと思っていた。いやはや恐ろしい! そんな無理やりな追加販売はもうコリゴリだ。
飲食店で「次に何をお飲みになりますか?」と聞かれると「え、そんなに売上がほしいの」「そう急かすなよ」と思うことはないか? 「お客様ファースト」とか言いながら、売上がほしい「飲食店ファースト」じゃないか。みっともないそういう行為を、自分のナリワイでは自制した。
こうした痩せ我慢は“美徳”となる。それに一人で営む飲食店では、追加注文を取ると酒に料理にと自分が忙しくなる。お客さんとまどろんだり会話したりといった暇がなくなってしまう。そんなことなら店名をジャンク・バー「月など眺める暇はない」に変えたほうがマシだ。
よくこんなことがあった。俺に「料理が終わったら相談したいことがあるんです」と訪ねてきたお客さんが次々と注文するので、料理でてんやわんや。「誰だ、絶え間なく注文するヤツは? あ、キミか〜! 俺と本当に話したいのか? もう注文するのをやめてくれ~!」と。