――これ、あえて聞きにくいことを聞くのですが、もしその「沖縄の犠牲」を意識するというのであれば、普天間の移転が辺野古ではなくて県外っていうチョイスってのは、石破さんの中では今後、検討の余地はあるのでしょうか?
石破:辺野古基地への移転は、こんなに時間がかかっているけれども、第一次案でしかないのです。その先にどれだけの機能や基地を国内外に分散できるか、という検討の余地は当然あるべきだと思います。ただそこにおいては、地政学と言うとよくわからないかもしれませんが、軍事合理性という観点が常に必要です。
軍事というのは「時間と距離の壁」をどう克服するか、という課題を常に抱えています。例えばいまオーストラリアが作っている高速輸送艇、あれは今までの常識を変えるほどのスピードで人員や兵站を運べるわけです。そうすると「時間と距離の壁」は今までほど高くない、ということになる。
昔だったら敵が来るのは陸路で何か月単位、で、それが海路で何週間単位、飛行機によって何時間単位になり、ミサイルは何分単位になって、距離の壁はどんどん低くなっていくわけですね。
沖縄の海兵隊というのは、どのみち主力艦は佐世保から持ってくるわけですから、軍事合理的にどうなんだと言うことは常に検証されなければいけないと思っています。常に検証していれば、どこかで「沖縄でなくてもいい」ということがありうる。その負担軽減のために、本土のどこかでも大丈夫なのではないか、あるいは数を削減できるのではないかということを検討し続けなければいけない。
もう一つは沖縄の負担っていうのは具体的には、騒音、事故、犯罪などですが、それが「米軍によるもの」という心理的な負担も大きいと思います。これらは、基地の管理自体を自衛隊が担うことができたら変えられるのではないか、と思っています。
海兵隊の任務については、「殴り込み部隊だ」「外征軍だ」とだけ言われがちですが、本来的な任務としては、島嶼防衛であり邦人救出なのです。陸海空軍という大きな組織では小回りが聞かないので、陸海空軍のエッセンスを凝縮した形の海兵隊がつくられた、そして海兵隊のみがなし得る、即応性の高い任務というのがある。
アメリカの海兵隊は領事機能も一部有していて、パスポートも出せます。翻って、これだけ海外に日本人がいて、それがみんなアメリカに助けてちょうだいとか、トルコ航空に乗っけてちょうだいとか、それはもう無理です。私は、防衛庁長官になった26年前、「何で日本には海兵隊はないの」っていう話をしました。ようやく陸上自衛隊にも海兵隊的な機能を持つ部隊ができてきています。これが任務を代替できるなら、その分減らせるアメリカの海兵隊の部隊というのはありうるはずだ、と思っています。
「日本政府は米軍と国民どっちの味方だ?」と思わせてはいけない
――なるほど。防衛庁長官のときに、
ヘリコプター墜落事故(※2004年8月13日、沖縄県宜野湾市の沖縄国際大学構内に、米海兵隊のCH53大型輸送ヘリコプターが墜落、 爆発炎上する重大事故)を経験されてらっしゃるので、多分、他の自民党の代議士の先生方と体の芯で捕らえ方が違うだろうなあとは思っていましたので。
石破:あのヘリコプター墜落事故で、命を落とした人がおられなかったのは奇跡だと思いました。今度同じことが起こったらどうなるのだという恐怖感は、私の中にはすごくあります。今度もし人的な犠牲が出たら、日米同盟自体が危機に瀕します。国民が、「日本政府ってどっちの味方なんだ」っていう思いを持つようなことは絶対にしてはいけないと思っています。地位協定の改定についても、今まで確かに一歩ずつ「運用の改善」を重ねてきましたが、抜本的に対等性を高めることもできると思っています。例えば、自衛隊の訓練場を米本土に常駐してはどうか。陸、空は、日本のこの狭隘な国土からいって、十分な訓練ができませんので、今でも臨時という形で米国での訓練を行っています。それを常設にすれば、アメリカにおける自衛隊の地位というのは、日本におけるアメリカ軍の地位と同一でなければおかしいわけですね。このような形で、完全に対等な地位協定を実現するということは、やってみる価値があると思っています。このような努力を積み重ねて、万が一の事故が起こったときにも、日本政府は日本国民の味方なんだ、という当たり前の話ですが、そういう意識を国民に持っていただくことが重要だと思っております。