小泉進次郎ら自民党若手議員による国会改革案や参議院に提出された公職選挙法改正案は「改革の皮を被った党利党略」

自民党だからできる国会改革に挑戦して欲しい

 小泉提言の具体的項目は、いずれも自民党の国会対策レベルで対応可能なもので、内容的にはよりスムーズに政府提出議案を審議・成立させようという方向です。一部に国会審議の充実につながるものもありますが、多くは国会の形骸化を助長する危険を内包しています。もろ手を挙げて賛同できるものではありません。  しかし、注目すべき点もあります。それは、与党の事前審査の見直しです。  与党の事前審査とは、政府が国会に提出する議案について、閣議決定前に与党の合意を条件とする自民党の慣行です。自民党の合意は、同党の総務会の決定を意味します。総務会に提出する議案は、同党の政務調査会審議会の決定を必要とし、政調審議会に提出する議案は、同党の部会・調査会・特別委員会での了承を必要とします。  これにより、政府が国会に提出する議案は、予め与党内での審査を終え、決定まで終えているため、与党にとっての国会審議を「消化試合」と等しいものにしています。  この事前審査について、小泉提言は「今後の進め方」の項で、歯切れ悪く言及しています。
“今後、こうした「討論のアリーナ」としての国会を目指して改革を進める場合には、さらにいくつかの課題が見えてくる。(略)英国においては、政策決定を内閣に一元化しており、与党の事前審査制度は存在しない。(略)一方、我が国では、与党が内閣の法案や予算案を事前に審査する制度を確立しており、日常的に官僚と国会議員が接触している。(略)今後、ポスト平成時代に、与党の役割は何か、政権公約のあるべき形は何か、事前審査制度の役割は何か、官僚人事のあり方も含めて政と官の仕切り線をどこにひくのか、国民的な議論が必要である。”
 国会を充実させるには、国会多数派(=与党)にとって、国会審議を「ガチ」にすることが不可欠です。現在の国会は、野党が「ガチ」であるのに対し、与党はできる限り速く議案を成立させる「スムーズ至上主義」に陥っています。事前審査が「スムーズ至上主義」を生んでいます。  事前審査を廃止すれば、国会多数派(=与党)の国会での質問や要求がより真剣なものとなり、国会の充実に大きく寄与します。予算や法案に与党の要求を盛り込むには、国会で修正することになります。与党は現在、それらを非公開の事前審査で行っていますが、国会で行うようになれば、有権者からもその活動が見えるようになります。  何より、事前審査の廃止は、自民党の意思だけでできるのです。野党が反対することはないでしょうし、そもそも野党の了解は必要ないのです。官僚も、自民党の会議出席や事前のご説明、根回しの必要性がなくなり、業務量が大幅に減って、喜ぶのではないでしょうか。安倍晋三首相と二階幹事長が合意すれば、次の国会から実現します。  小泉議員ら自民党若手議員には、事前審査の廃止という、自民党だからこそできる国会改革に挑戦することを強く期待しています。 <文/田中信一郎> たなかしんいちろう●千葉商科大学特別客員准教授、博士(政治学)。著書に『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない―私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』(現代書館)、『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
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