それでは、日本経済を低迷させないために、どのような政策が必要なのでしょうか。ここでは、5つのトピックを示します。詳細については機会を改めて論じたいと考えています。
1 貧困・低所得の人々の所得向上を通じた需要の拡大
短中期的には、消費性向の高い人々の実質的な所得を向上することで、人口減少等に伴う需要減少の傾向を抑制する必要があります。所得向上には、現金給付の他にも、質の高い住宅の確保や福祉サービスの供給など、現物給付も重要になります。最低賃金のアップも必要です。
2 規制の強化を通じた労働時間の短縮・柔軟化による需要の多様化
日本の産業の大半を占めるのは、国内市場を対象とするサービス業です。人々がピークを分散させつつ、多様なサービスを購入することが、サービス業の安定的な振興につながります。それには、平日の日中を含む様々な時間に分散して、サービスを購入してもらうことが必要になります。
3 付加価値を増やせない株主・経営者の市場からの退出
能力や構想力、挑戦力の低い株主・経営者を市場から退出させ、有能な人々に取って代わることを促すことです。そのためには、働き手が、所得を失わずに、新たな職能を身につけ、別の企業に就職できる、積極的労働市場政策を北欧諸国並みに強化する必要があります。それにより、能力の低い経営者等の低効率企業から、能力の高い高効率企業へと、働き手が切れ目なく移動でき、付加価値を増やせない株主・経営者は、市場から退出していくことになります。
4 職域から個人への社会保障システムの転換
勤務する企業の大きさや職種、フリーランス、職の有無、家族人数等に関係なく、生まれてから亡くなるまで、個人を単位とする社会保障システムが必要です。それは、社会保障のすき間を解消する観点だけでなく、個人がイノベーションを起こし、起業したり、様々なことに挑戦したりする、水平分散の経済構造を促進する観点でも必要です。
5 多様な価値観や属性、知見を持つ人々の社会進出
イノベーションを促進する有効な方法は、心理的・物理的な差別を解消し、多様な人々が対等に意見や知見を交流・交換する社会・地域を形成することです。人々が、職場と自宅以外に、地域という居場所を持つことも大切になります。
リチャード・フロリダ『新クリエイティブ資本論』は、それを全米の都市データから明らかにしています。
最後に、安倍政権が高プロを進める理由は、なぜでしょうか。それについては、ハーバービジネスオンラインで私が寄稿した
「安倍政権とは何か?そして何を目指すのか?有権者に突きつけられる選択肢」で考察していますので、ご覧いただければ幸いです。
<文/田中信一郎>
たなかしんいちろう●千葉商科大学特別客員准教授、博士(政治学)。著書に『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/
@TanakaShinsyu