簡素で頑丈な、日本独自のロケット・エンジン「LE-9」。いよいよ燃焼試験がスタート

エンジンの燃焼試験開始で開発は佳境に

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LE-9エンジン Image Credit: JAXA

 JAXAによると、LE-9の試験エンジンを使った燃焼試験は、今年4月から2018年3月までの1年をかけて、また複数のエンジンを使い、合計で40回以上実施するとしている。  これまでのところ、LE-9の開発は、やや遅れつつも比較的順調にきている。ただ、他国のエンジン開発でも言えることだが、実際にエンジンに火を入れて噴射する燃焼試験の段になってから新たなトラブルが発生することは多く、まさしくこの燃焼試験が、LE-9、そしてH3にとって、開発の大きな山場のひとつになる。  もうひとつ忘れてはならないのが、第2段エンジンの存在である。H3の第2段エンジンには、現在のH-IIAやH-IIBにも使われている「LE-5B」というエンジンを改良し、信頼性向上や低コスト化を施したものを使う。こちらの開発も進んでおり、燃焼試験も今年3月30日から始まっている。  現在の計画では、2020年度にLE-9を装備したH3ロケットの試験機が打ち上げられ、その後も打ち上げを重ね、数年のうちにH-IIAやH-IIBロケットを代替することになっている。そこにたどり着くには、いよいよ始まったLE-9の燃焼試験がうまくいくか、そしてH3の開発が成功するかどうかにかかっている。  そして運用が始まったあとも、前回取り上げたように、安価にかつ高い頻度と信頼性で打ち上げを続けることができ、さらに並み居る他のロケットと競争し、それに勝って国内外から打ち上げの受注も得られるかどうかなど、険しい道が待ち受けている。  さらにエキスパンダー・ブリード・サイクルという日本独自の技術をうまく育てることができれば、再使用ロケットや有人ロケットへの発展の可能性も見えてくる。  こうした困難と挑戦をくぐり抜け、H3が日本の、そして人類の宇宙活動を未来を切り拓く存在になることを期待したい。
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H3ロケットの想像図 Image Credit: JAXA

<文/鳥嶋真也> とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。 Webサイト:http://kosmograd.info/ Twitter:@Kosmograd_Info 【参考】 ・LE-9|エンジン|JAXA 第一宇宙技術部門 ロケットナビゲーター(http://www.rocket.jaxa.jp/engine/le9/) ・(http://fanfun.jaxa.jp/jaxatv/files/jaxatv_20150708_h3.pdf) ・LE-Xエンジン開発へ向けた取り組み(https://www.mhi-global.com/company/technology/review/pdf/484/484040.pdf) ・H3ロケット1段用LE-9エンジンの燃焼安定性向上(https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/534/534036.pdf) ・三菱重工技報 Vol.51 No.4 (2014) 航空宇宙特集 再使用型ロケット開発に向けた取り組み状況について(http://www.mhi-global.com/company/technology/review/pdf/514/514044.pdf
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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