日本の新型ロケット「H3」、いよいよ開発が佳境に。その実力と未来を展望する

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H3の成否は、単にロケットが完成するかどうかだけでなく、それをとりまく環境や体制も改善できるかにかかっている Image Credit:JAXA

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月31日、開発中の新型ロケット「H3」に使用する新型ロケット・エンジン「LE-9」の試験用のエンジンの製造が完了し、今年4月から約1年かけて、実際にエンジンを噴射する燃焼試験を開始すると発表した。  H3ロケットは2020年度の初打ち上げが予定されており、現在運用中の「H-IIA」や「H-IIB」ロケットのあとを継ぎ、日本の宇宙開発を維持、発展させ、そしてさらなる高みへと押し上げるための重要な使命を背負っている。そして、H3ロケットを飛ばすLE-9エンジンは、日本が長年育んできた技術を使った高い性能をもつエンジンで、この燃焼試験の開始により、LE-9の、そしてH3の開発も、いよいよ佳境に入る。  今回は、H3の目的から、開発の意義、そしてLE-9の特長などについて、2回に分けて解説したい。

2020年代の日本の宇宙開発を支えるために

 日本は現在、中型から大型の人工衛星や打ち上げるためのロケットとして、「H-IIA」ロケットを運用している。H-IIAは宇宙開発事業団(現JAXA)と三菱重工が中心となって開発され、2001年に初めての打ち上げに成功。以来、2017年4月時点で33機が打ち上げられ、そのうち32機が成功し成功率は約97%、また7号機以降は連続成功を続けており、これまでにJAXAの衛星から、内閣府の衛星、月・惑星探査機、海外の民間企業の衛星など、多数の人工衛星を宇宙へ送り届けてきた。  また2009年には、H-IIAをもとにして、国際宇宙ステーションへの物資の運搬など、より重いものを打ち上げられるようにしたH-IIBロケットも開発され、こちらは6機中すべてが成功している。  安定した実績を残しているH-IIA、Bだが、その現状と将来は決して順風満帆というわけではなく、実のところさまざまな問題を抱えている。  たとえばH-IIAは、日本にとっては大型かつ、比較的重いものを打ち上げられるロケットではあるものの、他国にはさらに大型で、より重いものを打ち上げられ、それでいて価格は同じか、もしくは安価なロケットがあり、人工衛星のメーカーもそうしたロケットに合わせた衛星を製造することが多いことから、打ち上げ能力の不足と価格競争における競争力の低下という問題を抱えている。  また、ロケットを製造したり、打ち上げたりする施設は老朽化しており、その維持のために決して少なくない金額が投じられ、宇宙開発の予算を圧迫している。  さらに、H-IIAの開発から20年近く経つことで、新しい世代の技術者の育成や、技術力の低下を抑える必要も生じている。  これらの問題はすべて密接に関係している。たとえば技術者がいなくなり、技術がなくなれば、新しいロケットを造ることも、今あるロケットを維持し続けることもできなくなる。  また、ロケットがあっても、打ち上げ能力や価格が国際的な標準より下回っていれば、国内外から衛星打ち上げを受注することができない。すると打ち上げ回数が減るため、高コスト化や技術力低下をさらに招き、JAXAや内閣府などの政府系衛星すら打ち上げがおぼつかなくなってしまう。下手をすると、2020年代以降、日本がロケットをまともに打ち上げられなくなる可能性もある。  こうした事情から、H-IIAより安価に、より大きく重い衛星を打ち上げられる、新しいロケットを開発する必要が生じた。そして2014年度から開発がスタートしたのが、「H3」ロケットである。
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H-IIAより大きく、柔軟で、すばやい「H3」
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