日本の新型ロケット「H3」、いよいよ開発が佳境に。その実力と未来を展望する

H-IIAより大きく、柔軟で、すばやい「H3」ロケット

現在活躍中のH-IIAロケット Image Credit: JAXA

 H3ロケットはH-IIAや、H-IIBよりも少し大きなロケットで、最大の打ち上げ能力も底上げされている。またエンジンや、パワーを補強するブースターの装着数を変えられるようにすることで、さまざまな種類の衛星の打ち上げに対応できるようになっている。同様の仕組みはH-IIAでもあるが、H3ではより柔軟に、そして効率的に対応ができるように配慮されている。  また、ロケットの設計を簡素にしたり、部品数を削減したり、さらには、これまでロケットには、ロケット専用に開発された部品を使うことが多かったが、民生品を活用したりすることでコスト低減が図られる。  さらに、これまでH-IIAは、注文を受けてから造り始める、いわば受注生産のような方法で製造されている。それだと製造ラインが稼働していない時間の無駄が多く、またすばやく注文に応えることもできない。そこでH3では、自動車や航空機のように淡々と生産を続け、注文が入ればすぐに組み立て、すばやく、柔軟に打ち上げられるようにする。  同時に、ロケットそのものだけでなく、開発や運用の体制にもメスが入る。H-IIAやBまでのロケットは、まず国の機関であるJAXA(やその前身の機関)が主体となって開発し、運用が安定したあとで民間企業である三菱重工に移管する、という方法をとっていた。  しかしそれでは、技術的に良いロケットは造れても、世界的な需要の動向や顧客の声などに、迅速かつ柔軟に対応することは難しい。前述のように、日本がロケットをこれからも維持、発展させていくためには、国内の需要だけでなく、国内外の企業から打ち上げを受注して、打ち上げ回数を稼がなければならない。つまり商業的に売れるロケットにしなければならない。  そこでH3では、開発段階から三菱重工が主体的に参加し、需要の変化や、競合する他のロケットの動向などを見ながら開発することになった。つまるところマーケティングをしながら、それに沿ったロケットを開発し、運用していくということで、他の業種ならやっていて当たり前のことが、ようやく日本のロケットでも取り入れられることになる。  こうしたロケットの技術的な進歩と、そしてそれを運用する体制の改革より、衛星(顧客)の要望に応じて、より迅速に、そして柔軟に打ち上げられるロケットを開発し、運用することを目指している。

H3ロケットの想像図。エンジンや、パワーを補強するブースターの装着数を変えられるようにすることで、さまざまな種類の衛星の打ち上げに対応できる Image Credit: JAXA

H3のコストはH-IIAの約半額、それで世界に勝てるか

 このように、従来とは大きく異なる方法で、より良いロケットを目指して開発が進むH3だが、それでも世界の他のロケットと比べ、圧倒的に優位に立てるかといえばそうではない。  ロケットの打ち上げを発注する側、つまり衛星通信会社などの顧客が重視する要素に、打ち上げ価格がある。  H3の打ち上げコストは現在のところ、H-IIAの約半額を目指すという。H-IIAは最も打ち上げ能力が小さい構成で約100億円、大型の衛星を打ち上げる場合などにブースターを複数取り付ける構成だと120億円くらいとされるため、H3の打ち上げコストは50億円から60億円ということになる。ここに利益を乗せた販売価格がいくらになるかはわからないが、いずれにしてもコストも価格も、H-IIAより数割安くはなる。  しかし、米国のスペースXが運用している「ファルコン9」は、現時点でも打ち上げ価格は6200万ドル(約68億円)であり、さらに機体を再使用することで10~30%の割引が可能だとしている。  また、現在衛星打ち上げ市場でトップをシェアを握っている欧州のアリアンスペースも、2020年に新型ロケット「アリアン6」を投入することを計画している。アリアン6の価格は9000万ユーロ(約105億円)を狙っているとされ、数字だけ見ると高いものの、アリアン6は衛星を2機同時に打ち上げられるため、衛星1機分にするとおおよそ半分の価格になる。  数字だけ見れば、H3は他と比べて大きく安いというわけではなく、同じくらいか、あるいは高くなる可能性がある。そのため価格面での優位性はない。  もっとも実際のところ、各ロケット会社が出すコスト、あるいは価格は、何をどこまで含んだ額なのかが曖昧で(たとえばロケットだけの金額なのか、打ち上げにかかる設備費や人件費も含んだ金額なのか)、単純に比較することは難しい。また、今回参考までに現在の為替レートで換算した日本円も併記したが、今後その値が大きく変動することもありうる。
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日本のロケット打ち上げに課せられているハンデ
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