簡素で頑丈な、日本独自のロケット・エンジン「LE-9」。いよいよ燃焼試験がスタート

簡素で造りやすく、頑丈で壊れにくいエンジン

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LE-9が採用するエキスパンダー・ブリード・サイクルの図。前出の他のエンジンのものと比べると簡素になっていることがわかる Image Credit: JAXA

 しかし、日本の新型ロケット「H3」が採用しようとしている「LE-9」では、これとは違う、日本独自の「エキスパンダー・ブリード・サイクル」という方式を使う。  エキスパンダー・ブリード・サイクルは、ターボ・ポンプを動かすための、小さな燃焼室がない。その代わりに、燃料である液体水素を燃焼室やノズルの壁面に流し、熱を吸収した際に発生するガスを使って、ポンプを動かす。ポンプを動かしたあとのガスは、ノズルの内側から外へ排出される。ちなみにこのガスは、ノズルと、そこから噴射されるガスとの間で壁のような役割を果たし、ガスの熱からノズルを守る役割を果たす。  この仕組みは、小さな燃焼室を使う形式のエンジンと比べると、全体的な効率や性能はやや劣る。しかし、エンジンの各部分にかかる圧力が小さくなるので、構造が簡素で造りやすくなり、低コスト化が期待できる。  また、その簡素な構造のおかげで、不具合や故障が起こりにくくもなる。さらに機体の姿勢が乱れている場合など、多少条件が厳しくとも、エンジンを動かすこともできる(これは実際に過去の打ち上げで実証されている)。  おまけに、エンジンの各部にかかる圧力も低いこともあり、故障してもすぐに爆発はせず、ゆるやかに停止できる余裕が生まれる。つまり、他のエンジンと比べて、頑丈で壊れにくいため、低コスト化に加えて信頼性、安全性の向上も期待できる。  エキスパンダー・ブリード・サイクルのエンジンは日本が世界で初めて実用化し、その後改良を重ね、現在もH-IIAロケットの第2段エンジンとして使用されている。実用エンジンとして使っているのは日本だけであることから、「日本独自のエンジン」でもある。
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LE-9の成功の鍵とは?
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