簡素で頑丈な、日本独自のロケット・エンジン「LE-9」。いよいよ燃焼試験がスタート
LE-9の成功の鍵は、”強み”をどのように活かせるか
しかし、日本独自のエンジンとは言っても、それは性能や技術が世界一、ということをすぐには意味しないことに注意が必要である。
エキスパンダー・ブリード・サイクルは、前述のように他のエンジンと比べて構造が簡素で、頑丈で、安全性に優れている反面、全体的な効率や性能ではやや劣る。そのため、「優れたエンジン」と呼べるようにするためには、その劣る分を、どのようにして別の要素で補うことができるかが重要になる。
つまり、他のエンジンより効率や性能といった数字では劣っていたとしても、簡素で頑丈であることを活かし、安価で壊れにくくすることはできるかもしれない。
たとえば、高性能なエンジンを使ったロケットが、エンジンの故障で10回中1回失敗し、一方で性能はやや劣るLE-9を使ったH3ロケットが10回中すべて成功すれば、「優れたエンジン」、「優れたロケット」と呼べるのは後者になるだろう。さらにそこへエンジン価格も安いというおまけもつけば、その評価はより上がることになる。
また、将来の発展性という点でも、エキスパンダー・ブリード・サイクルは大きな可能性を秘めている。
たとえば構造が簡素で、頑丈であるということは、本質的にエンジンの再使用にも向いている。これまで本サイトでは、実業家イーロン・マスク氏が率いるスペースXが、これまで打ち上げごとに使い捨てていたロケットを再使用し、旅客機のように何度も飛ばせるようにしていることを取り上げてきたが、日本もこうした再使用ロケットを開発できる可能性がある(もっとも、現時点では、H3を再使用できるようにするという計画はない)。
また、エキスパンダー・ブリード・サイクルの爆発しにくいという点は、人が乗った有人宇宙船の打ち上げで最大限に活かすことができる。たとえロケットが故障しても、エンジンが爆発せず、安全に止めることができれば、脱出装置を使って宇宙船や乗組員をロケットから脱出させる機会や時間、余裕の増加につながるためである。
もっとも、現在、日本は独自の有人宇宙船をもっておらず、また開発する具体的な計画もない。そもそも、日本が独自に有人宇宙飛行をやるべきかどうかはさまざまな意見がある。やれるのに越したことはないだろうが、宇宙船の開発や運用にかかる費用や必要性などを考えると、反対意見も多い。
将来的に、日本が有人宇宙飛行についてどのような道を選択するかはわからないが、もし独自の有人宇宙船、有人ロケットを保有するということになれば、LE-9とH3の存在は、それを可能にする大きな材料になる。行わない場合でも、他の簡素であることや、故障しにくいといった特長は残るため、まったくの無駄にはならない。
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