一連の経緯はこういうことでした。山下さんは高井さんをプライベートで誘おうと昼夜を問わず口説いていたそうです。お土産のお菓子に付箋でLINEのIDを貼るなどその手法は決して効果的ではありませんでした。そんななか、山下さんが考えたのは「マンツーがダメなら周りを巻き込もう」という奥の手でした。そこで出たアイデアが“お花見”だったのです。
ただ、そもそも同期会を開催したいわけではなかったため、高井さんが出席しないことが確実になった時点で山下さんはお花見の中止を決定したのだそうです。
ところで、そもそもお花見の開催を知らされていない高井さんがなぜ出席しないことになったのでしょうか? それは、さんざん高井さんに断られている山下さんは「男だけの同期では断られる」と考え、高井さんと仲の良い鈴井さんを先に誘い、「鈴井さんも来るから」という“
参加しやすい環境”を作ろうと考えたらしいのです。
ただ、鈴井さんはすでに結婚し、小さなお子さんもいるため、声をかけられた時点ですぐに断ったそうです。山下さんとしてはその時点で中止を決定していたのですが、同期には直前まで連絡するのを忘れていたそうです。
「あれは序の口でした」
先の先輩社員からその話を耳にした杉田部長(仮名)も最初は「まあ、プライベートの範囲」と特に気にしていなかったそうです。社歴15年の杉田さんは山下さんの直属の上司で、5年前に山下さんが所属している営業部の部長に就任しました。
入社以来、さまざまな社員を見てきた経験から、また、見える範囲では仕事もしっかりしているので「特に問題はない」と考えていました。しかし、その高井さんに対する話題が出始めてからあらゆる事象が杉田部長の耳に入って来たのでした。
事件簿【2】「なんであの子の送別会を彼がするの?」
派遣スタッフ赤崎さん(仮名)の派遣契約が終了することになりました。「赤崎さんの送別会をしようと」と言い出したのは赤崎さんの隣の部署の岩田くん(仮名)です。赤崎さんの部署は主婦の方が多く、送別会はランチで終わらせたそうです。
そんなところへ岩田君が送別会を提案してきたのでみんな怪訝に思ったそうです。しかし、「せっかく誘っていただいたので」赤崎さんも送別会をしぶしぶ了承したそうです。そしてその当日、その会場にはなんと、まったく赤崎さんと話したこともない営業の山下さんが座っていたそうです。しかも赤崎さんの隣に座り、しつこく口説き続けていたそうです。なお、参加者は山下さんのほか、先の同期と岩田君という赤崎さんとはほぼ馴染みのないメンバーだったそうです。
杉田部長が、そのメンバーを不審に思い岩田君に開催の経緯を聞いたところ「山下さんに誘うように頼まれました」とのこと。ちなみに、赤崎さんは既婚者でもあったため、“しつこく口説いていた”話を聞いた杉田部長は、山下さんを厳重注意したそうです。