JAXAの超小型ロケット、打ち上げ失敗――それでも失われない“民生品活用”の意義と成果

それでも失われない意義と成果

 今回の実験は、まず「打ち上げ実験」としては失敗であることは間違いない。本来ならつまずくはずがなかった部分で問題が起きたということは不思議なことであると同時に深刻であり、同型のテレメーターはS-520や他のSS-520でも使われているものであるため今後の打ち上げへの影響も考えらえることから、しっかりと原因を解明することが求められる。  しかし、それでも「民生技術を使ったロケットや人工衛星の開発」という、この計画のそもそもの目的さえも失敗だったかといえば、決してそうではない。  今回、SS-520-4やTRICOM-1に民生品を使うにあたっては、注意深く検討や試験が行われ、実際に打ち上げるところまでもっていくことができた。その中で、どういう部品なら使えるのか、また使うためにどういう試験が必要なのか、といった貴重なノウハウが得られたはずである。もし今回の打ち上げが、民生品と関係のないところで起きたのであれば、そのノウハウはそのまま今後も活用できるし、あるいは民生品が原因だったとして、検討や試験の過程を見直すなどして、より確実な民生技術の活用が可能になる。

TRICOM-1。打ち上げ失敗で落下していくロケットから、タイマーどおり分離されたとみられ、なおかつ起動して電波を出していたことが確認されており、不完全ながら一定の実証はできたとされる

 実は、打ち上げそのものは失敗したものの、搭載されていたTRICOM-1は、あらかじめ設定されていたタイマーどおりにロケットから分離されたとみられ、さらに海面に向けて落下していく中で起動し、海に落ちるまで電波を出していたという。すなわち、民生技術が使われた人工衛星が、ロケットの打ち上げによる衝撃などに耐え、なおかつ予定どおり動いていたということで、不完全ながらも、ある程度の実証はできたといえよう。  民生技術はすでに、人工衛星には多数使われており、ロケットにも徐々に使われ始めている。そもそも宇宙用部品と民生品は、本質的には大きな違いがあるものではないため、後者が利用できるならそっくりそのまま代替可能であり、なおかつ安いというおまけもつく。世界ではすでに、民生技術の活用は、ある点で日本よりも先に進んでおり、したがって民生技術を利用しない、民生技術の活用に意義を唱えるということは、コストや部品の入手性など多くの面で他国に遅れをとるということになり、また民間企業の宇宙事業への参入を阻害する要因にもなる。  打ち上げ失敗は失敗として原因の究明を進めつつ、一方で、いかにSS-520-4とTRICOM-1の開発で得られた民生技術活用のノウハウを活かすか、あるいは再挑戦の機会を設けるなどして、今回のような実験ができる機会を継続的に、そして多数、作っていくかが求められる。決してこの歩みを止めてはならない。 <取材・文・写真/鳥嶋真也> とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。 Webサイト: http://kosmograd.info/ Twitter: @Kosmograd_Info 【参考】 ・JAXA | SS-520 4号機実験結果について(http://www.jaxa.jp/press/2017/01/20170115_ss-520-4_j.html) ・SS-520-4号機のミッション概要(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/060/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/10/20/1378321_4.pdf) ・JAXA | SS-520 4号機実験の実施について(http://www.jaxa.jp/press/2016/12/20161208_ss-520-4_j.html) ・資料21-1-2 SS-520 4号機号機の打上げに係る飛行安全計画(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/060/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/10/20/1378321_2.pdf
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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