ただ、SS-520については、開発したJAXAも、また製造を担当しているIHIエアロスペースも、これを使って今後も人工衛星を打ち上げ続けるということは考えていないという。
まずJAXAにとっては、これはあくまで実験であり、SS-520を使って人工衛星を打ち上げられるロケットを開発できるかどうか、そして実際に打ち上げできるかどうかを試すのが第一である、ということがある。
そして能力上、高度180km x 1500km以外の軌道には打ち上げられず、またこの軌道は実用的ではない。高度180kmというと、十分宇宙空間と呼べる場所ではあるものの、わずかに大気があるため、衛星はその空気抵抗で徐々に高度が落ち、すぐに大気圏に落ちてしまうのである。そのためTRICOM-1もそれを念頭におき、運用期間は1か月ほどと見積もられている。
また、SS-520をベースにする限り、これ以上の改良による能力向上も望めないことから、衛星打ち上げロケットとして使い続けたり、商業化して販売したりすることは現実的ではないのだという。
今回の計画の責任者を務める羽生宏人(はぶ・ひろと)さん(JAXA宇宙科学研究所・准教授)
計画の責任者を務めるJAXAの羽生宏人(はぶ・ひろと)さんは、「以前から『第3段を付ければ衛星が打ち上げられる』と言われていたわけですから、研究者としてはやってみたいじゃないですか」と、やや冗談めかして語った。ただ、「今回実証される技術が、今後民間企業などで活用されることを期待しています。研究者の立場として、ぜひ(技術を)使って欲しいですね」とも語る。
また、プロジェクトにかかわっているメンバーは若手が多く、羽生さん自身も含めて人材教育にもなりましたとも述べ、今回の開発・実験で得られた技術や経験が今後、他のロケットなどへ波及することに期待を寄せた。
<取材・文・写真/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
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宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
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