目下のところ一番の懸念は、固体ロケットの技術のさらなる進歩と、それによるミサイルの大型化、そして陸から発射される弾道ミサイルへの転用だろう。
現在、北朝鮮がもつスカッドやノドンといったミサイルは、すでに韓国や日本を射程に収めている。しかしスカッドもノドンも、さらにいえばテポドンも、液体の推進剤を使っているため、発射の前日などにその動向を捉え、迎撃準備などの対応を取ることができる。実際、6月にムスダンが発射されたときも、日米韓は前日にその兆候を掴んでいた。
しかし固体推進剤を使ったミサイルであれば、発射の直前までトンネルなどに隠しておき、いざ発射する段になってから上空が開けた場所に出し、ミサイルを直立させ、火を点けるだけで発射することができる。日本はもちろん米国の偵察衛星も、北朝鮮を24時間監視できるわけではないし、また衛星の軌道もおおよそ明らかになっているため、その隙を突いて発射することは不可能ではない。そうなれば先制攻撃などの対応を取ることは難しくなるだろう。
これまでスカッドやノドンが担っていた韓国や日本への攻撃手段が、より弾道ミサイルとして効果的な、即応性に優れた固体推進剤のミサイルへ取って代わることになれば、その脅威度は大きく上がることになる。
米国まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発にもつながる、ムスダンの高性能液体ロケット技術と、即応性に優れた固体ロケット技術。この二つの異なる技術開発を同時に進め、そして曲がりなりにも着実に結果を残しつつある北朝鮮を、決して侮ってはならない。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。
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http://kosmograd.info/about/
【参考】
・USSTRATCOM Detects, Tracks North Korean Submarine Missile Launch – U.S. Strategic Command(https://www.stratcom.mil/news/2016/632/USSTRATCOM_Detects_Tracks_North_Korean_Submarine_Missile_Launch/)
・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2016/08/24b.html)
・(2nd LD) N.K. leader calls SLBM launch success, boasts of nuke attack capacity(http://english.yonhapnews.co.kr/national/2016/08/24/35/0301000000AEN20160824009552315F.html)
・North Korea’s SLBM Program Progresses, But Still Long Road Ahead | 38 North: Informed Analysis of North Korea(
http://38north.org/2016/08/slbm082616/)
・KCTV (DPRK SLBM Underwater Ballistic Missile Test-Fire) – YouTube(
https://www.youtube.com/watch?v=JAUNcCV3hOg)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
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