大西卓哉飛行士、宇宙へ出発。これからの日本の有人宇宙開発はどうなる?

NASAが2030年代に計画している有人火星探査の想像図 Photo by NASA

日本が取るべき道は

 しかし、ひとつ注意したいのは、「米国がやるから付いていく」、もしくは「海外がやっているから日本もやる」という考え方は、合理的ではなく、非常に危険であるということである。  たしかに、ロボットでは難しい作業でも、人間の脳や目、手を使えば簡単にできることもあり、有人宇宙開発に大きな意義があることは間違いない。また、人が宇宙へ行くということは誰の目からみてもわかりやすい「すごさ」があり、話題性は依然として高く、ふだん宇宙の話題を取り上げないようなニュース番組などでも、日本人の宇宙飛行士が宇宙に行くとなれば、わざわざ特集を組むほどである。  しかし、いつまでも話題性だけでは有人宇宙開発への投資を正当化することはできない。そして冷戦期の米ソのように、予算が青天井というわけでもない。したがって、現在から近未来にかけての日本にとっての有人宇宙開発が、日本の宇宙開発全体や、科学・技術全体の中においてどれだけの意義や必要性があるのかを議論し、その結果によっては有人宇宙開発からの撤退も考えるべきであろう。  米露はもちろん、中国やインドも有人に力を入れているのは事実であるが、だからといって日本も有人をやらなければ対抗できないということはない。  また、日本はこれまで、米国のスペース・シャトルや、現在のISS計画に多額の資金を投じ、さらに日本人の宇宙飛行士も育成してきている。有人宇宙開発から撤退すれば、これまでの投資が無駄になることになり、批判は免れないだろう。しかし、そもそも日本の宇宙開発には、かつて手を付け、決して少なくない予算を投じながらも実現しなかった計画がいくつもある。そうしたものを無視し、有人のみ「せっかくこれまでやってきたのだから」と特別扱いすべきではない。  今後、有人を何らかの形で続けるにしろ、止めるにしろ、いずれにしてもより深い議論が求められることは間違いない。重要なのは、その議論を安易に、また不透明な形で進めるべきではないということだろう。  たとえば有人を推進する場合、「米国がやるから日本もやります」といった安易な根拠を認めるべきではなく、それがどれだけ社会への還元が見込めるのか、予算はどこから出すのか、他の計画へしわ寄せがいくといった影響はないのかといったことをしっかり説明し、そうならない体制から作ることが求められる。  逆に有人を止める場合でも、単に「お金がかかるので有人を止めます」といった理屈は通すべきではない。また、米国や欧州、ロシアはもちろん、中国やインドといった国々も有人宇宙開発に進出する中で、日本が有人以外の手段でどのように存在感を発揮するのか、ということをはっきりと打ち出すことが必要になるだろう。  かつて日本政府が「有人宇宙活動について、我が国は、今後10年程度を見通して独自の計画を持たない」と決めたときには、こうした十分な議論と説明が行われたとは思えない。もっとも、議論の結果、どちらか一方に専門家の見解や世論が傾くことはありえず、またどちらにとっても痛みが伴う結論になるだろう。しかし重要なのは、議論を尽くし、お互いの利点や欠点を洗いざらい出して認識し、そして妥協点を見い出すことである。またそうした議論は、何年か先にふたたび考え直す必要が生じた際の土台にもなる。  ISS計画の終わりと、その次の各国の動きが見えてきた今こそ、あらためて日本にとっての有人宇宙計画をしっかり考え直す時期であろう。 <文/鳥嶋真也> とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。 Webサイト: http://kosmograd.info/about/ 【参考】 ・Asteroid Redirect Mission | NASA(https://www.nasa.gov/mission_pages/asteroids/initiative/index.html) ・プレスキット. 大西卓哉宇宙飛行士長期滞在プレスキット(2016年7月1日 A改訂版)(http://iss.jaxa.jp/iss/jaxa_exp/onishi/material/onishi_press-kit_0a_0701.pdf) ・宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会:文部科学省(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/071/index.htm) ・国際宇宙探査に関する これまでの議論の整理(案) 平成27年4月13日(月)(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/071/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/04/20/1356794_4.pdf) ・今後の宇宙開発利用に関する取り組みの基本について 総合科学技術会議(http://www8.cao.go.jp/cstp/output/iken020619_5.pdf
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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