大西卓哉飛行士、宇宙へ出発。これからの日本の有人宇宙開発はどうなる?

国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」 Photo by NASA

これからの日本の有人宇宙開発はどうなるか

 そもそも日本は、かねてより有人に関しては否定的で、2002年には「有人宇宙活動について、我が国は、今後10年程度を見通して独自の計画を持たない」という政府決定が行われるなど、自ら可能性さえ封じてきたという歴史がある。当時、この決定には批判もあったが、この決定の言葉どおり日本は独自の有人計画をもたないまま過ごし、そして決定から10年以上が過ぎた2016年現在でも、それが続いている。  もっとも、有人に必要な技術がまったく無いというわけではない。たとえば日本は、「きぼう」というモジュールを開発し、現在ISSに接続され、日本の実験棟としてさまざまな実験や研究が続いている。また無人機ながら、有人機に近い能力をもった補給船「こうのとり」も開発し、年1機ほどのペースで打ち上げられて順調に運用が続いており、現在は改良型の開発も始まっている。

日本が開発した宇宙ステーション補給機「こうのとり」。無人機ではあるものの、開発を通じて有人機に必要な技術のいくつかを獲得した Photo by NASA

 もちろん宇宙船が宇宙から安全に帰ってくる技術や、宇宙で人が生活するのに必要な技術、また宇宙服の開発技術など、まだまだ足らないものも多いが、こうしたものも時間と予算があれば開発は可能である。  また、今後の方針も皆無というわけではない。たとえば文部科学省では、ISS以後の国際共同での宇宙探査(国際宇宙探査)計画を見据え、その中で日本が取るべき役割と、それに向けた準備について定期的に議論が行われている。その中では、まず月や火星の無人探査に力を入れることとし、有人に関しては、将来の月周辺にもってきた小惑星の探査や、有人月・火星探査を見据え、引き続きISS計画を通じて有人宇宙技術を獲得する、とされている。  ただ、たとえば日本独自の有人宇宙船を開発するのかなど、具体的にどういう技術を獲得するのかや、米国や欧州などが進める探査計画にどこまで参画するつもりなのか、といった議論まではまだ行われていない。  これらの議論をもう少し深読みすると、まず米国が主導する計画に参加することはほぼ既定路線であり、そして小惑星にしろ火星にしろ、実際に人が訪れる前にはまず無人探査機による調査を行って露払いをする必要があることから、そこに日本が小惑星探査機「はやぶさ」などで培った技術で協力する、という考えがあるように見える。つまり日本は、独自に宇宙船の開発などは行わないまでも、有人探査の前に必要な無人探査で重要な地位を占めることで、それなりの発言権を得て、米国の宇宙船に日本人宇宙飛行士のための座席を確保し、月や火星などへ送り込む算段を立てているようである。  たしかに、今後10年ほどの間に、日本が独自に有人宇宙船を開発することは、財政状況を考えると現実的ではない。一方、仮に米国が現在の計画どおり、将来的に有人小惑星・火星探査を実施するなら、それには多額の資金が必要になるため、国際協力という形で、日本にも参加しないか、という声がかかることは十分に考えられる。そして日本の宇宙政策、とくに有人宇宙開発に関しては対米従属を基調としているため、日本がその誘いに応じることになるのはまず間違いない。また、関係者の中には、世界各国の宇宙飛行士が月や火星を歩く中、そこに日本人がいなければ批判が出るのでは、という懸念もあるだろう。  その結果、日本は直接資金提供を行ったり、また無人の探査機による事前の探査や、何か機体や部品を造ったりといった形で協力し、その引き換えに火星行きの宇宙船に日本人宇宙飛行士を乗せる、といったことを行うことになろう。これは日本がISSへ参加した経緯と同じである。
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日本が取るべき道は
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