オウム事件の「風化」に言及しても「風化」の実情は報じない新聞・テレビ

残党への警戒感も低下

 大田氏はこれまで、上祐氏やひかりの輪について、真摯に反省しているかのように評価してきた。このスタンス自体、根拠が怪しい。  2018年に週刊新潮(7月19日号)が、〈「上祐史浩」がひた隠し! 警察も知らない「麻原彰晃」の女性信者殺害〉と題する単独スクープ記事を掲載した。90年頃に教団の金を横領した疑いをかけられた信者の吉田英子さん(当時27歳)が、麻原の指示のもと殺された。その殺害の場面に死刑になった教団幹部とともに上祐氏がいたという内容だ。これまで発覚していなかった「新たな殺人事件」である。 〈そこにいたのは、麻原、新実、中川智正、故・村井秀夫幹部、上祐氏、そして麻原側近の女性幹部だった〉(記事より)  記事によれば、死刑執行より前から同誌が上祐氏に事実確認の取材を申し入れていたが、上祐氏ははぐらかして答えずにいたという。それが、現場にいたとされる死刑囚の刑が執行され「死人に口なし」となった2日後に、上祐氏は一転して事実を認めた。しかも自分は「見ていただけ」だという言い訳つきで。  一連の事件を反省し総括したとしてきたそれまでの上祐氏のスタンスは、ウソだったことになる。  前出の「スピリチュアル・シンポに続きオウムに殺された坂本弁護士を中傷する講演会まで。どうした立教大学」でもリポートした通り、上祐氏やひかりの輪の欺瞞性を示す事実はいくつもある。

オウム残党に群がる文化人たち

 ひかりの輪は現在「宗教団体ではない」と自称しているが、もともと「21世紀の新しい宗教」を標榜して設立され、現在も宗教的な実践活動を行なっている。にもかかわらず、田原総一朗氏鈴木邦男氏といった「文化人」は「ひかりの輪は宗教ではない」とヨイショする。鈴木氏は2010年にトークイベントで「上祐くんは国の宝だ」とまで言い放っている。  私自身も時折出演するトークライブハウス「ロフトプラスワン」。上祐氏のサブカル文化人化に大きな役割を果たしたのは、ロフトグループのオーナーである平野悠席亭だ。上祐氏に心酔した平野氏がネイキッドロフトで上祐氏を招いて開催したトークイベントで、上記の鈴木氏の「国の宝だ」発言が飛び出した。  平野氏はひかりの輪が主催する「聖地巡り」ツアーに参加し、ロフトのミニコミ誌で体験記を執筆したりもした。私は彼とこんな会話を交わしたことがある。 平野氏「お前は上祐を批判するけどさ、あいつはホントにオーラがすごいんだよ!」 「オラーがすごいウソつきなんですよ!」  上祐氏はロフトプラスワンや系列店、別のイベントスペースなどでイベントを繰り返し、現在も続いている。上祐氏単独のイベントはほぼない。常に、一定の集客が見込める「有名人」やサブカル文化人との共演だ。5月にはNHKから国民を守る党の立花孝代表とのイベントも予定されている。  当初警察やメディアから犯人扱いされた松本サリン事件被害者の河野義行氏も、一時期ひかりの輪から事実上の広告塔として利用された。2013年に「聖地巡り」にも参加し、ひかりの輪はウェブサイトで、河野氏の聖地巡り参加を告知して参加者を募った。  ロフトプラスワンなどでのイベントは、単に上祐氏の主張を披露し交友関係をアピールするだけの場ではない。ひかりの輪が一般の人々を勧誘する入口にもなっている。  もともと河野氏の講演などに通っていたある女性は、ロフトプラスワンの上祐イベントに参加後、河野氏とともに聖地巡りにも参加。事実上の信者になってしまい、聖地巡りで無免許のまま運転手を繰り返していたとして2016年に警察に摘発された。(参照:ひかりの輪・聖地巡りで常習的に無免許運転か=警視庁が家宅捜索|やや日刊カルト新聞)  河野氏は2011年に「ひかりの輪外部監査委員会」の委員長に就任している。ひかりの輪が観察処分を外すために作った「外部団体」風の組織だ。前述の大田氏が意見書を寄せたのは、この外部監査委員会が公安審査委員会に提出した報告書。河野氏は委員長を2期務めて2015年に辞任している。  しかし前述の「河野ファン」の女性はその後もひかりの輪に関わり続け、警察に摘発された時には外部監査委員だった。外部監査委員が教団の行事で運転手を務めていたのだから、実質的に第三者組織ではなくシンパ集団にすぎないことも明らかだろう。これが、河野氏が協力していた外部監査委員だ。  オウムをめぐる「風化」の問題は、過去についてのデマに限らない。一見「社会融和路線」のように見えがちなひかりの輪については特に、多くの人々の警戒心が緩んでいる。相当な「風化」ぶりだ。
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公の場でデマを語っても批判されないという「風化」
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