「表現の自由」が憲法で保障されなくなったら?<あべこべ憲法カルタ・第2回>

『表現の自由』はゆっくりと規制されていく

「憲法が改正されても公権力が表現の自由を規制することはほぼない」と思う人もいるだろう。先日まで私もそう考えていた。しかし、表現の自由を最大限認めている日本国憲法下でさえ似たようなケースが起きていると知り、危機感を募らせている。  7月15日札幌市内で、応援街頭演説中の安倍総理へ対し、聴衆の一部からヤジが飛んだ。「安倍やめろ」と叫んだ男性や、「増税反対」と声を上げた女子大生は、10人以上の警察官に囲まれ排除された。その際の警察官と女子大生のやりとりを見ていただきたい。 ——-警察と女子大生のやりとり——- 警察「さっき約束してって言ったじゃん」 女子大生「何を?」 警察「声あげないでくれよ〜って」 警察「ウィンウィンの関係になりたい」 警察「何か飲む?買うよ?お金あるから。なんか飲まない?ジュース買ってあげる」 女子大生「何も信用できない。あなたたちのこと」 警察「うちらも信用できないからさ~」 警察「一緒についていくしかないの。大声出さないでほしいだけなんだよ?」 警察「お願い。お願い。お願い。きょうはもう諦めて」 警察「ジンジャーエールですか?ウーロン茶ですか?」 警察「きょうはもう諦めて。何飲みますか?」 「増税反対」と政府の政策に反対する意見を言っただけで、警察官は、彼女を強制的に排除した。しかし、何を根拠に強制力を行使したのかが明確でない。確かに、公職選挙法は選挙演説を妨害することを禁しているが、動画を見る限り、最高裁判例が示している「聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」には当たらないと感じる。  一連のやり取りにおいて、警察官はとてもフランクに優しく話しかけ、女子大生に黙ってもらうようお願いしている。「警察官が優しく諭しているのだから、言うことを聞けよ」と思われるかもしれない。しかし私たちは、警察官の「声を上げないで」や「きょうはもう諦めて」という一見穏やかな言葉の裏に隠された暴力性に目を向けなければならない。警察官の言っていることは「お前の意見は言わせない。さっさと帰れ」となんら意味の変わらない言葉だ。結果、一見穏やかな言葉によって、何を根拠に強制力を行使しているのか説明もないまま、彼女の表現の自由は制約された。  これが現代の日本で起こっている現実だ。私たちの表現の自由はゆっくりと、したたかなやり方で、制約されていっている。

表現の自由を守ることは、民主主義を守ること

 同じく香港でも表現の自由が危機に瀕している。先月の1日から警察とデモ隊との間で、衝突が続き、デモという「表現の自由」の行使へ対し、警察官がゴム弾や警棒を使って鎮圧している。この光景を見た多くの日本人はデモ隊を支持し、「#香港加油」(香港がんばれの意味)とTwitterで呟く。  日本と香港、一方は穏やかに、もう一方は圧倒的な力によって表現の自由が侵害されている。両国とも表現の自由が侵害されていることにかわりはないはずだ。しかし私たち日本人は、自国で起きている表現の自由の侵害に、あまりに無関心ではないか?  香港のデモが終結した際に、表現の自由を失っているのはひょっとしたら日本なのかもしれない。  思想に関係なく多くの日本人が、表現の自由を守るため闘う香港のデモ隊へエールを送るのに、日本で同じような事件が起きた時、表現の自由を守る側ではなく、侵害する政府側に立つ人が多くいるのことが私は不思議でならない。  表現の自由を守ることは、民主主義を守ることに繋がる。それらを守ることに、保守もリベラルも関係ないはずだ。  もういい加減、左右のポジショントークに終始し、守らなければならない私たちの基本的人権が犯されていくのはうんざりだ。  そんなことをしている間にも、ゆっくりと優しく、しかし恐ろしいほどの攻撃性をもって、私たちの表現の自由は制約されていっている。今こそこの現実を見つめて、声を上げる必要があるのではないだろうか?  日本国憲法第12条前段にこう書かれている「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」  日本国憲法で保障されている権利を不断の努力によって守ることが、私たち国民の義務なのだ。だから私は、表現の自由を守るためにこれからも「表現」という不断の努力をやめない。 <文/日下部智海(くさかべともみ)> 明治大学法学部4年。フリージャーナリスト。特技:ヒモ。シリア難民やパレスチナ難民、トルコ人など世界中でヒモとして生活。社会問題から政治までヒモ目線でお届け。 <イラスト/「チャリツモ」
社会問題をクリエイターが発信するwebサイト「チャリツモ」。世界各国にいるライターが、日本や世界の社会問題を、イラストを用いてわかりやすく伝えている。
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