さて、昨年12月から表面化した統計問題は、大きく4つに分けられます。
2-1.毎月勤労統計における不正な抽出と復元
1つ目の問題は、
基幹統計である毎月勤労統計において、東京都の500人以上の事業所について、断りなく不適切な処理を行ってきた問題です。
具体的には、全数調査すべきところを、
2004年から2017年まで、およそ3分の1の事業所の抽出調査へとこっそり切り替えた上に復元処理も行わなかった結果、賃金水準が下振れする結果となりました。これが
雇用保険給付などの過小給付につながり、当初予算案の閣議決定のやり直しが必要な事態となりました。
さらに2018年1月分の調査からは、
復元処理を始めた結果、前年比の賃金の伸び率が過大となりました。
そして厚生労働省は、いずれの不正についても、
公表せずに隠し続けました。総務省の統計委員会がデータの上振れに疑義を呈し厚生労働省に説明を求めていたにもかかわらず、昨年12月まで、
全数調査を行っていると偽り続けていました。
この問題について、厚生労働省が設置した特別監察委員会が調査を行いましたが、
問題の早期収束を図るための「お手盛り」の調査であったことが、1月24日の閉会中審査以降、明らかになり、改めて調査のやり直しが必要な事態となっています。また、この統計不正への官邸の関与の有無については、そもそも調査対象とされていません。
2-2.2018年1月からの統計手法の一気変更と官邸の介入の疑い
統計をめぐる2つ目の問題は、
2018年1月分からの毎月勤労統計の統計手法の変更に、官邸の不当な介入があった疑いが濃いことです。
2018年1月分からの統計手法の変更は、一気に行われ、
賃金水準が大きく上振れする結果となりました。変更点は以下の通りです。
30~499人規模の事業所について、従来は総入れ替え方式であったものが、ローテーション・サンプリングと呼ばれる部分入れ替え方式に切り替えられました。それにあわせて、入れ替え時に過去にさかのぼってデータを補正する遡及改訂も行わないこととなりました。
さらに同時に、2014年の経済センサスのデータに基づいた母集団復元を行うためのウエイト変更である
ベンチマーク更新が行われたのですが、従来、ベンチマーク更新時に行っていた賃金指数の、
過去にさかのぼっての補正も行わないこととなりました。
また、毎月勤労統計の調査対象は常用労働者ですが、その常用労働者の定義も変更され、
前2か月に18日以上勤務した日雇い労働者を対象から除外すると共に、有期雇用労働者の定義も変更されました。
前述の東京都500人以上事業所の抽出結果の復元も、それらの統計手法の変更にあわせて、
こっそり行われました。
不正な抽出と復元の問題を除き、その他の統計手法の変更は、
専門家による適正な検討プロセスを経て行われたものであるならば、何も隠し立てをする必要はないはずです。
しかしながら、部分入れ替え方式を検討した厚生労働省の「
毎月勤労統計の改善に関する検討会」は、2015年の6月3日から9月16日まで6回にわたり開催されていますが、3年以上前の検討会であるにもかかわらず、
第4回から第6回の議事録が公開されていませんでした。野党が議事録の公開を求め続けた中で、ようやく公開されたのは
先日の2月15日です。
議事録を公開してこなかった経緯からは、
「不都合な事実」が露呈するのを防ぎたいという意図がうかがわれます。そして後述するように、厚生労働省が
阿部正浩座長に2015年9月に送っていた一連のメールが先週22日に公開されたことにより、全数入れ替えを維持する方針から、部分入れ替えの検討へと、おそらくは
官邸の介入によって、結論が大きく変わった経緯が明らかになってきました。
毎月勤労統計をめぐるその他の統計手法の変更をめぐっても、不透明な部分が多く残されています。
2-3.GDP600兆円の目標に向けた不当な「かさ上げ」疑惑
統計をめぐる3つ目の問題は、
GDP600兆円の目標達成に向けた恣意的な数値の「かさ上げ」の疑惑です。
2015年9月24日に安倍首相は「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言し、アベノミクスの新たな「三本の矢」を発表(参照:
内閣府)し、その中で「希望を生み出す強い経済」として、GDP600兆円の目標を掲げました。
その目標に向けて、実際にGDPは大幅な上昇を示しました。しかしその中で、「その他」項目の急激な上昇が
、恣意的な「かさ上げ」によるものだったのではないかとの疑いが生じています。2016年の12月に国際基準に合わせるためとしてGDPの計算方法が大幅に見直されましたが、
国際基準への適合とは異なる「その他」の要因で、大幅な上昇が生じているのです。
また、GDPの算出に関わる基幹統計についても、
統計委員会への申請がないものについても未諮問審査事項として2014年以降10項目の見直しが行われており、これらもGDPの「かさ上げ」につながった可能性が指摘されています。
2-4.他の基幹統計にもみつかった不正
統計をめぐる4つ目の問題は、毎月勤労統計の不正の発覚を受けて行われた自主点検によって、56の基幹統計のうち24に不正が見つかったという問題です。これを受けて、調査員を含めた調査体制の在り方、統計部局の予算、人員、専門性のあり方、統計部局の一元化の是非などが問われています。