仮に、米国が壁の建設費用の負担にそのような手段を講じるようになるのであれば、メキシコ政府は米国からの輸入品に関税を設ける構えである。
メキシコ政府は米国が今回の壁の建設をメキシコに相談もなく一方的に決め、しかも、その費用をメキシコが負担するというメキシコにとって屈辱ともとれる姿勢を米国が維持している限り、メキシコ政府は現行の北米自由貿易協定(NAFTA)から撤退する用意があるとしている。実際に、米国とカナダは既にメキシコを無視して二国間の貿易交渉を進めているという。勿論、カナダはメキシコとも二国間の貿易取引という形での交渉をする用意があるとメキシコ政府に伝えられている。即ち、現状の流れからはNAFTAは解消される方向に向かっているということである。
また、メキシコ政府は麻薬が米国に密輸されていることにも、今後はその取り締まりに米国と協力しないという姿勢も取ることが出来るとしている。その場合には、米国が麻薬の撲滅にメキシコ政府に提供してきた支援金が消滅することになるであろう。
トランプ大統領はNAFTAはメキシコを一方的に有利にし、米国にとって非常にみすぼらしい協定であると批判している。
しかし、現状はメキシコはこの協定に加盟したことによって、メキシコの農業は壊滅し、玩具、家具、繊維産業も同様に米国からの輸入品によって完全に衰えてしまったという事実をトランプ大統領は無視している。
農業でもメキシコ人にとって主要食であるトウモロコシは米国から遺伝組換えの安価な品種が輸入され、メキシコのトウモロコシは壊滅したのであった。そして、NAFTAの弊害を受けた産業に従事していた多くの労働者が職を失い米国に移民したという事実もトランプ大統領は無視している。米国の企業が安価な労働力を求めてメキシコに工場を移転し、米国で多く労働者が職を失ったとトランプは指摘しているが、それは全く一方的な見方である。
また、メキシコ政府が壁の建設費用の負担をしない理由の中には、現在メキシコとの国境から米国に不法入国している移民の中には中米からの移民が多くいるという事実である。よって、メキシコ以外の国からの不法移民のせいでメキシコが壁の建設費を負担せねばならないということにメキシコ政府は同意できないとしている。