世界最先端の装置を積んだ気象衛星「ひまわり8号・9号」
気象衛星「ひまわり8号・9号」の想像図 Image Credit:気象庁
2014年、そして今回打ち上げられた「ひまわり8号・9号」の最大の特長は、「AHI」と呼ばれる世界最先端の「可視赤外放射計」を積んでいることにある。可視赤外放射計というのは気象衛星にとって”目”にあたる装置で、可視光、つまり私たちの目に見える光と、温度によって見え方が変わる赤外線の両方を使い、雲の動きなどを詳しく撮影することができる。
このAHIの搭載により、先代の「ひまわり6号・7号」と比べ、雲などをより細かく撮影できるようになったり、カラー画像が撮影できるようになったりと、大幅に性能が向上している。
とくに優れているのは、「時間解像度」といって、撮影ごとにかかる時間が短くなったことだろう。従来は、ある範囲(たとえば日本など)の観測頻度は30分間隔だったが、AHIによって2.5分間隔になった。これにより、雲が発達したり移動したりする動きを、より正確に、直感的に追えるようになった。
これらの進化によって、天気予報の精度の改善が期待できるほか、火山灰の分布も詳しく把握できるようになり、災害対策にも役立つ。さらに、風や気温などの時間変化をコンピューターで計算して将来の大気の状態を予測する数値予報という分野でも、この詳細なデータは大いに役立つという。
「ひまわり8号・9号」に搭載されているAHIは、米国のハリス(旧エクセリス)という会社が開発した。日本製ではないことに驚かれる方もいるかもしれないが、こうした特殊な装置は、開発にノウハウが必要だったり、量産が期待できないため採算に合わなかったりするため、輸入したほうがさまざまな面でメリットが大きいことが多々ある。
ちなみに同社は、米国の次世代気象衛星「GOES-R」に搭載される可視赤外放射計「ABI」の開発も手掛けている。実はABIとAHIはほぼ同等のもので、ABIに「ひまわり」向けに調整したものがAHIである。ただ、ABIを積んだ「GOES-R」はまだ打ち上げられていないため、日本の「ひまわり8号・9号」が世界に先駆けて、この新しい装置の運用を行うことになった。
しかし、造った米国ですらまだ使ったことのない装置だったため、試験をしていくと予想していなかったような問題が出てきたという。「ひまわり」向けに調整もしなければならないことも相まって、非常に苦労したと三菱電機は語っている。
なお、ABIを積んだGOES-Rは今年11月中の打ち上げが予定されている。ただ、それは決して「ひまわり8号・9号」の優位性が失われるというわけではない。
「ひまわり9号」打ち上げ成功後の記者会見で、気象庁の宮本仁美さん(気象庁 気象衛星課 課長)は、「気象観測というのは、ひとつの衛星だけでやるわけではなく、複数の衛星で、全世界を均等に観測することが必要だと思っています。そのため『ひまわり』と同等の能力をもつ衛星が上がって、地球全体を観測するということは、非常に大きく期待しています」と語る。