ついに定まった一群の人々による「改憲への照準」――シリーズ【草の根保守の蠢動30回】

 その萌芽はすでにある。  安倍首相は10月5日、参院予算委員会で「家族について憲法でどのような位置付けをするか議論されてしかるべきだ」と答弁している。(参照:『時事通信』2016年10月5日「憲法に家族位置付けを=衆院解散「適切に判断」-安倍首相・参院予算委」)  高橋史朗や百地章の発言を読めばわかるように、彼らの「家族論」は、戦前の家族像や家制度を是認する時代錯誤の代物でしかない。しかしながらその主張が「家族を大切に」「親子の絆を」と言う曖昧模糊とした表現で包まれた時、果たしてその危険性に気づける人がどれだけいるだろうか?もっと踏み込んで言えば、倫理的な徳目としては否定し難い「家族」や「親子」などの言葉で憲法改正が語られれば、「平和のために9条を守ろう」と主張する人々の中からでさえ、賛同者が現れるのではないか?  また、憲法改正が現実味を帯びたことを歓迎する改憲派の中にも、安倍政権とその取り巻きが狙う改憲が、9条でも緊急事態条項でもなく家族条項であることを知った時、改憲を支持できなくなる人々がいるのではないか?

「議論の噛み合わなさ」の正体

 これが冒頭で指摘した、「議論の噛み合わなさ」の正体だ。護憲派も改憲派も「9条」と「緊急事態条項」に囚われすぎており、改憲勢力本体の狙いが、そこにはないことに気づいていない。反対運動もピントがずれていれば、賛成世論も焦点があっていないのだ。  そんなことをよそに、改憲勢力本体は2/3議席を根拠として改憲手続きを前に進めていくだろう。そして、気づけば、戦前の家制度をよしとするような前近代的な憲法が出来上がってしまう……。  そんな「誰も望まない未来」を出来させないためにも、今後ますます、日本会議=日本青年協議会界隈の改憲議論に、注視していく必要があろう。 <文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)写真/時事通信社> ※菅野完氏の連載、「草の根保守の蠢動」が待望の書籍化。連載時原稿に加筆し、『日本会議の研究』として扶桑社新書より発売中。また、週刊SPA!にて巻頭コラム「なんでこんなにアホなのか?」好評連載中。
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
1
2
3
4
5
6
日本会議の研究

「右傾化」の淵源はどこなのか?「日本会議」とは何なのか?

バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会