ULAがアトラスVやデルタIVの後継機として開発中の「ヴァルカン」ロケット Photo by ULA
さらにスペースXは2016年5月18日、今度はNROからも衛星打ち上げを取り付けた。NROの衛星もまた、これまではULAのロケットが打ち上げを独占してきており、スペースXはこれも崩したことになる。
また、米国の機関以外の、世界各国の人工衛星を使った事業者、たとえば人工衛星を使った通信を行う会社や、地球観測衛星の画像を販売する会社などからの受注も順調に続いており、多数のバック・オーダーを抱えている。こうした民間の衛星打ち上げに加えて、米国の官需衛星の打ち上げも獲得することで、打ち上げ回数を大きく稼ぐことができ、毎月、あるいは数週間ごとに次々と打ち上げられるようになれば、ロケットの信頼性向上や(再使用せずとも)コストダウンにもつながる。そして2016年7月現在、すでにそうなりつつある。
一方、ULAでは現在、アトラスVやデルタIVの後継機となる、新しい「ヴァルカン」というロケットの開発を進めている。ヴァルカンでは、思わぬアキレス腱となったロシア製エンジンの使用を止め、似た性能の米国製エンジンを新たに開発して使用する計画で、また機体の設計や製造体制などを全面的に見直し、さらにファルコン9と同様に機体の再使用――ただしヴァルカンはエンジンのみの再使用――などによるコストダウンも検討されている。無事に完成すれば、ファルコン9と性能、価格など、あらゆる面で対抗できるロケットになるだろう。
しかし、ヴァルカンの完成は早くとも2019年以降になる予定で、さらに今度はヴァルカンが軍事衛星の打ち上げに必要な認証を取得する必要があることから、ファルコン9と真っ向勝負ができるようになるのは2020年代に入ってからになるだろう。そのため今後しばらくは、ファルコン9が米国の軍事衛星の打ち上げを独占するという、これまでとは逆転した状態が続くかもしれない。
しかし、これまでと違うのは、この独占は慣例や制度によって形作られたものではなく、スペースXが実力で勝ち取ったものであるということ、そして今後は常に競争状態が続いていくという点である。これからもスペースXが独占を続けるかもしれないし、それともULAが巻き返すことになるかもしれない。あるいは、さらに別の参入者が現れる可能性もある。さらに、この競争に勝つということは、性能やコストの面で優れた、世界の商業打ち上げ市場の中でも競争力の高いロケットであるということの証明でもあり、日本を含む全世界のロケット・ビジネスにも大きな影響を与えることになるだろう。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。
Webサイト:
http://kosmograd.info/about/
【参考】
・Air Force’s Space and Missile Systems Center Certifies SpaceX for National Security Space Missions > U.S. Air Force > Article Display
http://www.af.mil/News/ArticleDisplay/tabid/223/Article/589724/air-forces-space-and-missile-systems-center-certifies-spacex-for-national-secur.aspx
・NRO discloses previously unannounced SpaceX launch contract – SpaceNews.com
http://spacenews.com/nro-discloses-previously-unannounced-launch-contract-for-spacex/
・Air Force Releases GPS III-3 Launch Services RFP > Los Angeles Air Force Base > Article Display
http://www.losangeles.af.mil/News/Article-Display/Article/901805/air-force-releases-gps-iii-3-launch-services-rfp