イーロン・マスクのスペースX社、米軍事衛星打ち上げの「独占」を打ち砕く

二大軍需企業に独占されていた米軍事衛星打ち上げ

有名なNASAの「ハッブル宇宙望遠鏡」は、NROの偵察衛星の設計が基になっているといわれている Photo by NASA

 一口に「軍事衛星」と言っても、さまざまな種類がある。まず思い浮かぶのは、映画などでおなじみの、宇宙空間から強力なカメラで地上を撮影する「偵察衛星(スパイ衛星)」かもしれない(もっとも、映画で描かれる偵察衛星の性能はやや誇張されている場合が多い)。偵察衛星には、ディジタル・カメラのような光学センサーを使うものの他に、レーダーを使って撮影するタイプの衛星もあり、こちらは画像は粗いものの、光学センサーでは撮影できない、夜間や対象の上空に雲がかかっているときでも撮影できるという特長をもつ。  米国でこうした偵察衛星を保有し、運用を行なっているのは、米国家偵察局(NRO)という米国防総省の下にある機関である。NROは他にも、通信やレーダーで使われる電波を傍受して、その発信源や周波数などを探知する衛星なども保有している。

カーナビやスマートフォンの地図アプリなどでおなじみの「GPS」衛星は、米空軍が運用している Photo by Lockheed Martin

 一方、カーナビやスマートフォンの地図アプリ、現在世界で大流行している「ポケモンGO」などでおなじみの全地球測位システム「GPS」も、実は米国の軍事衛星で、こちらは米空軍が運用を担っている。GPSは衛星を利用し、世界中のどこにいても自分の位置を正確に知ることができるというシステムだが、元々は軍事作戦で使うために開発されたもので、それが一般にも開放され、現在では誰でも利用できるようになっている。米空軍は他にも、軍用の機密通信を行うための通信衛星や、弾道ミサイルなどの発射を探知するための早期警戒衛星なども運用している。また米海軍も通信衛星を保有している。  こうしたさまざまな軍事衛星は、もちろん開発しただけでは役に立たず、それをロケットで宇宙に打ち上げなければならない。そして米国において、軍事衛星の打ち上げはある種の聖域となっていた。なぜなら、ボーイングとロッキード・マーティンという、米国を代表する航空宇宙メーカーの二大巨頭が独占していたからである。
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軍事衛星打ち上げ目的で開発されたロケット
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