イーロン・マスクのスペースX社、米軍事衛星打ち上げの「独占」を打ち砕く

スペースX、GPS衛星の打ち上げを受注

ファルコン9ロケット Photo by U.S. Air Force

 2015年9月、米空軍は新しいGPS衛星「GPS III」の、2号機の打ち上げの入札を開始した。その数か月前に軍事衛星打ち上げの認証を得たスペースXにとって、初の軍事衛星打ち上げ入札への参加でもあった。ところが、競合相手になるはずだったULAは、11月に「我が社のロケットは空軍が求める必要条件を満たしていない」として入札を辞退することになった。そして翌2016年の4月27日、米空軍はGPS-III 2号機の打ち上げをスペースXに発注すると発表。ULAによって10年もの間続いた米軍事衛星打ち上げの独占が、不戦勝ながらもスペースXによって崩れたのである。  実は、ULAには大きな欠点があった。同社が運用するアトラスVとデルタIVのうち、アトラスVのほうが安価で、また打ち上げ数も多く信頼性も高い。したがって、安価なファルコン9と真っ向から勝負するなら、アトラスVを持ち出すしかない。  このアトラスVロケットには、ロシアから輸入した「RD-180」というロケット・エンジンが使われている。米国というと宇宙開発で最先端というイメージがあるが、実はある部分においてはロシアが進んでいる部分があり、このRD-180はまさにその代表格のようなもので、米国が喉から手が出るほど欲した高性能エンジンだった。

ロシア製エンジンが”弱点”となったアトラスV

 ロシア製エンジンで米国の軍事衛星を打ち上げる、という状況はにわかには信じがたいが、それでも20年近くは何の問題もなく続いていた。ところが、2014年から始まったウクライナ問題をめぐる米露関係の悪化により、米国議会は同年、RD-180を使って米国の軍事衛星を打ち上げることを禁止する決定を下した。そしてGPS IIIの打ち上げ契約の入札の期限である2015年11月までにこの禁止令が解除されなかったため、ULAは入札を辞退せざるを得なかったのである。RD-180の使用禁止はロシアに対する経済制裁の一環として行われたことだったが、それにより米国の衛星を打ち上げる手段を一つ失うことになったのは皮肉な話である。  その後、同年12月にこの禁止令はいったん解かれ、今後の入札にはULAも参加可能になった。そして今年8月3日、米空軍は3機目のGPS III衛星打ち上げ入札への募集を開始し、ついにULAとスペースXの本格的な直接対決が行われることになった。  しかし、ロシア製エンジンの使用禁止令が再び出ないとは限らない。また、そもそもファルコン9に比べて、ULAのアトラスVやデルタIVは高価であり、競争に勝てるかどうかは不透明である。たしかにULAのロケットは、ロケットの信頼性や打ち上げの確実性、過去の実績といった点ではファルコン9より優れている。しかし、当の米空軍は、スペースXが初勝利となったGPS III 2号機の入札において、ファルコン9のコストの安さをとくに重視し、かつ高く評価したと語っており、このことからも今後の入札でもファルコン9が受注を取り続ける可能性は高い。
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続くスペースXの快進撃、巻き返しを図るULA
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