格納庫に並ぶ回収されたファルコン9ロケットの第1段機体 Photo by SpaceX
スペースXやブルー・オリジンは、これまでに着陸・回収に成功したロケットを詳しく分析しており、1回の飛行でどれだけの疲労が溜まるのか、それはどれくらいのコストで整備できるものなのか、といった実際の知見を持っている。その知見が具体的にどういうものかは明らかにされていないが、ロケットの再使用に対するトーンが落ちていないということは、少なくとも今のところは、楽観的になれるほどの明るいデータが出ているということだろう。
しかし、本当にマスク氏が言うとおりの「打ち上げコスト100分の1」が達成できるかどうかは眉唾物である。少なくとも実現の可能性が十分に見えるまでは、マスク氏によるセールス・トークと見るべきであろう。
ロケットのコストを100分の1にするには、単純にロケットを100回再使用するだけでは済まない。打ち上げごとに点検と整備がかかるため、100分の1にするために必要な再使用の回数はもっと多くなる。
また、ファルコン9ロケットの部品の中で再使用できるのは第1段機体のみで、第2段機体や、搭載している衛星を空気抵抗や轟音などから守る衛星フェアリングなどは使い捨てている。つまりこれらは通常の使い捨てロケットのように、打ち上げのたびに生産する必要がある。
スペースXは、将来的に第2段機体やフェアリングの再使用もやりたい、という構想を持ってはいる。実現すれば機体のすべてを再使用できるようになるため、より大きなコスト削減が期待できる。
しかし、フェアリングの再使用は比較的簡単ではあるものの、第2段機体の再使用は、とくに回収の点で難しい。というのも、第2段機体は第1段機体とは違い、完全に宇宙空間に飛び出し、なにより人工衛星を軌道に入れるために必要な秒速約7.9kmという速度を出している。その機体を減速させ、次に大気圏に再突入させ、そして地上に着陸させるのは、技術的にかなり難しい上に、着陸脚や着陸のための推進剤などの追加装備によって、ロケットの打ち上げ能力は大きく低下することになる(詳しくは省くが、第2段に着陸脚などを追加することによる性能の損失は、第1段機体に追加することによる損失よりも大きく掛かる)。
第2段機体の回収の想像図。第2段機体は宇宙空間を高速で飛んでいる状態から帰ってくる必要があるため、実際に回収するのは技術的に難しく、低コスト化につながるかどうかも難しい Photo by SpaceX