例えば、A校という中高一貫校ではNEW TREASURE(発行元は、Z会の出版部門である)という検定外教科書が使われている。ここは学年のうち概ね1割ほどが東大・京大・一橋・東京工大・国立医学部に進学している都内の男子校だ。国内でトップクラスとは言わないまでも、普通の感覚で見ればかなりの進学校である。
ただ、HPでカリキュラムを確認すると、とても早いことがわかる。教科によって差異はあるものの、中学2年までで中学課程を終わらせるのが原則である。
だが、この中学課程というのが、(文法などもあるので単純比較が難しいが)単語数などを基準にすると高校まで6年間に匹敵する内容なのだ。
普通の公立中学校のカリキュラムでいくと英語については、文部科学省による「中学校学習指導要領解説 外国語編」では中学課程で単語数にして1200語程度の習得が目標とされている。
これに、高等学校でさらに1800語程度を習得して6年間で3000語の習得が目標となっている。
文部省資料より
ところが、このNEW TREASUREをはじめとした検定外の英語教科書は(出版社や、年度によってクセの違いはいろいろとあるものの)、おしなべて高校3年までに匹敵する語彙量を消化する内容となっている。
例えば、「バードランド」という英語検定外教科書の発行元、文英堂HPがわかりやすいので見てみよう。この内容は3分冊で総単語数はちょうど3000語とあり、さらに中高一貫校は「最短で2年間」でこれを終わらせることが可能とある。(参照:
文英堂サイト)
バードランドではなくNEW TREASUREを使用しているA校も、先述の通り中学2年まででNEW TREASUREを進めていき、習得する目標単語数はおよそ3000語程度となる。
だがここで少し考えてみたい。ある程度の進学校とはいえ、普通なら高校3年までにこなす内容を、中学2年生でこなすことが現実的で効果的な目標設定だろうか。
筆者がこのA校の定期テスト平均点や問題用紙、その他の資料を目にしたところでは生徒のうちこのカリキュラムを消化できているのは2割いるかどうか怪しい――残りは置いていかれている――というのが実際のところである。実は、この学校はまだマシな例ではないかと推察される。
実はもっと無理な運用をしていると思われる例があるのだ。
エリート校ならばまだしも、勉強において強みがないと思われる私立中高一貫校でも、まるで検定外教科書の利用こそが私立の本分であるかのように検定外教科書を利用しているところもあるのである。