熊本震災で「町の財政を支える観光施設」がピンチに!

町民の“夢”を乗せた吊り橋

 九重町を代表する景勝地「鳴子川渓谷」の標高777m地点に架かる巨大な吊り橋「九重“夢”大吊橋」。  この橋は2006年10月に開通した歩行者専用橋で、長さは390m、川床からの高さは173m。総工費は約20億円で、九重町の総事業費は約8億円。通行料金は1人往復500円となっている。  鳴子川渓谷は紅葉の名所である「九酔渓」と日本の滝百選の1つ「震動の滝」が一緒に見られる場所であり、ここに観光橋をかける計画は1950年代からあったが、架橋は長年「夢物語」だと言われてきた。それが名称の由来にもなったという。

橋から見た秋の渓谷。紅葉の時期の夕方は山全体が赤く染まって特に美しい

「無駄」と言われるも大盛況、町民生活支える人気施設

 平成の大合併の中で合併をせず「自律のまち」を掲げた小さな温泉町にとって、観光の目玉として建設した「九重“夢”大吊橋」に懸けた思いは大きかった。一方で、一部の在京マスコミはこの吊り橋を「無駄な公共事業の象徴」として大々的に批判、嘲笑の的としたことで、町民の間には不安が広がったという。  しかし、その不安は全く以て杞憂であった。  皮肉にもマスコミからの批判も知名度アップにつながり、九重“夢”大吊橋は2006年10月の開通直後から多くの客が詰めかけ、周辺の道路は大渋滞。紅葉の美しさも口コミで広まり、なんと開通24日後には年間集客目標を達成する。  初年度の最終的な集客数は年間目標の約8倍である約230万人。2年目も集客力は衰えず、九重町は開通から僅か2年で吊り橋の建設のために国から借りた地域再生事業債7億3000万円を完済してしまった。  2007年に大銀経済研究所(大分銀行)が大分大学と共同で行った調査によると、大吊橋が及ぼした経済効果は356億円にも達すると推定されるという。  この吊り橋人気は観光活性化のみならず、町の財政を潤す結果となった。橋の通行料収入によって財政が豊かになった九重町では、町内在住の中学生以下の医療費が無料化され、町営ケーブルテレビやブロードバンド網の整備が行われるなど、吊り橋は町民に“夢”を与えたとともに、町民の生活を支える観光施設となっていた。
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通行客激減で捨て身の覚悟の「無料化」へ
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