その後、日本でも乳酸菌を用いた食品を作り、人々の健康に貢献したいと考えた海雲は研究を重ねたのち、1916年に酸乳を発酵させて砂糖を加えたクリーム「醍醐味」やその製造過程で残った脱脂乳を乳酸発酵させた「醍醐素」を発売します。その後も乳酸を使ったキャラメルやキャンディー、飴や菓子に強壮剤といった関連商品を販売し、一定の評価は受けるものの、ビジネス的には中々軌道に乗らない日々が続きました。
そんなある日、ふとした思いつきで「醍醐素」に砂糖を混ぜて1~2日放置したところ、試験管の中で美味しい飲み物が出来上がっていました。海雲は、その商品的価値と栄養的価値を更に高めるために、当時の日本人の食事に不足していると指摘されていたカルシウムも添加することも思いつきます。
「赤とんぼ」の山田耕筰も絶賛した「カルピス」という響き
このように完成した、今まで誰も見たことも味わったこともない、美しい真珠色の複雑な美味しさを持った不思議な飲み物に、海雲は、牛乳に含まれるカルシウムから『カル』を、仏教における味の五段階の次位サルピス(熟酥)から『ピス』をとって「カルピス」と命名しました。次位なのは、最高位のサルピルマンダ(醍醐)からとって「カルピル」とするより歯切れが良かったためです。ちなみに米国では、Calpisは「カウ ピス(cow piss=牛の尿)」と聞こえることから「カルピコ(CALPICO)」の名称で販売されています。
ところで、人望があり、人脈に恵まれていた海雲は「日本一主義」という考え方を持っていました。これは、重要なことを決める際には、その道の第一人者に教えを請う、というものです。そこで「赤とんぼ」「待ちぼうけ」の童謡や甲子園の入場曲でも有名な音声学の権威、
山田耕筰に「カルピス」に関して、相談したところ『最も響きがよく、大いに繁盛するだろう』という評価をもらい、サンスクリットの権威である
渡辺海旭からも、美味の意味合いで言えば、醍醐味といって差し支えないと太鼓判を押されました。