記者説明会の出席者。左から、久保田孝氏(JAXA宇宙科学プログラムディレクタ)、常田佐久氏(宇宙科学研究所長)、原田力氏(JAXA追跡ネット)ワーク技術センター長
これまで世界中で打ち上げられた人工衛星の中で、これほどまで損傷を受けている機体が生き延びた例はあまりない。しかし、JAXAではまだ復旧を諦めてはいない。
その下支えとなっているのは、機体が分解したとされる時間よりもあとに、衛星からの電波が届いているという事実である。完全ではないにしても、衛星はまだ機能している可能性が残っている。
また、「ひとみ」はその形状から力学的に、ある一点を向いて回転する形に自ずと収斂する。すると、太陽電池に比較的に安定して光が当たりやすくなるため、通信が回復する可能性がある。太陽と正反対の方向を向いて収斂する可能性もあるが、その場合でも、太陽との位置関係は絶えず変化しているため、季節によって太陽光が当たる角度が変わり、いずれ発電できるようになるはずだと推測されている。
もちろん、通信が回復しても、衛星が復旧できるとは限らない。少なくとも大きな物体が分離してしまっていることが確実となった今、衛星が原型を保っていて、当初の計画通りの運用ができると考えるほうが難しい。
しかし、とにかく通信ができるようになり、問題発生当時から現在までの衛星の状況がわからなければ何も判断はできない。「ひとみ」は世界最高性能をもつX線天文衛星であり、1台でも観測機器が生きていれば、科学的成果を生み出せる可能性はある。
また、問題の原因が明らかになれば、今後開発される別の衛星の設計に活かし、今回起きたようなトラブルが二度と起きないように対策ができるかもしれない。
現時点では、そもそも現在の衛星の状態すらわかっていないため、回転がいつ収斂し、そして通信できるようになるかの見通しはまったくわからない。数か月、あるいは1年以上ということもあるだろう。
JAXAでは今後も引き続き、「ひとみ」との通信復旧を目指して作業を続け、また並行して、現在得られているデータから、現在の衛星の状態の推定や対策を進めていくという。何か進展があればその都度、また何もなくても1週間おきに、情報を発表していくとしている。
<取材・文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
【参考】
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2016年4月1日開催 X 線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)の状況について – YouTube
・JSpOC Twitter “
10 pieces from Astro-H break-up is posted on @SpaceTrackOrg. 41337 was amended to match the largest piece. The former 41337 is now 41442.”
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X 線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)の状況について(3月29日更新)– ファン!ファン!JAXA!
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
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