イーロン・マスクの「スペースX」襲来で、変革を迫られる欧州ロケット業界

アリアン6はファルコン9を倒せるか

アリアン6の想像図 photo by ESA-David Ducros, 2015

 アリアン6は2020年の初打ち上げが予定されている。問題は、その時点でファルコン9がどの位置にいるかである。  新しく開発されたロケットが技術的に、また市場からの信用を得られるほどに信頼性を得るまでには、年単位の時間がかかる。現在は、80機以上の打ち上げ数で十分な実績と信頼性をもつアリアン5を、後発のファルコン9が追いかけているという状況だが、今後ファルコン9が着実に打ち上げを重ねることができれば、2020年には十分な実績と信頼性をもつファルコン9を、後発のアリアン6が追いかけるという、逆転した状況になる可能性は高い。  ただ、まったく同じ歴史を繰り返すかといえば、それは難しい。現在、ファルコン9が実績が少ない中でもアリアンを追撃できているのは、価格が圧倒的に安いためだ。しかし、アリアン6の価格はファルコン9と同等になると見られているため、現在と同じ展開は期待できず、アリアン6は苦戦することになるだろう。  もちろん、市場にとっては衛星打ち上げ手段をファルコン9一機種のみに依存するという選択肢はありえない。複数のロケットがあれば価格競争が期待でき、また万が一、失敗や欠陥などでファルコン9の打ち上げが止まった際の保険という点からも、世界は複数のロケットを維持することになるだろう。  しかし、アリアン6にファルコン9にはない何か突出した優位性ができない限り、市場の主導権がアリアンからスペースXに移ることは十分に起こりえる。さらに、当初競争相手として見ていた、ロシアや中国のロケットの追撃にも耐えなければならない。欧州のロケット・ビジネスは試練のときを迎えている。 【参考】 ・Ariane 6 / Launch vehicles / Launchers / Our Activities / ESAcnes | Europe sets its sights on Ariane 6Airbus Safran Launchers: a highly promising first year(※pdf注意) ・Ariane 6, un chantier européen pour rester dans la course spatialeCNES Begins Work on Reusable Rocket Stage <文/鳥嶋真也> とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。 Webサイト:http://kosmograd.info/about/
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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