イーロン・マスクの「スペースX」襲来で、変革を迫られる欧州ロケット業界

欧州の次世代ロケット「アリアン6」 photo by ESA

 さきごろ配信した「人工衛星打ち上げビジネスで始まった価格破壊。イーロン・マスクの「スペースX」の挑戦」では、米国の起業家イーロン・マスク氏が立ち上げた宇宙企業「スペースX」が、他より半額のコストで打ち上げられるロケットを開発し、人工衛星をロケットで宇宙に打ち上げるビジネスにおいて、大きな変化がもたらされたことを紹介した。  今回は、それによって変革を迫られた業界最大手、欧州の「アリアンスペース」の動きについて紹介したい。

変革を迫られた欧州のロケット・ビジネス

欧州の現行機「アリアン5」 photo by ESA/CNES/Arianespace

 スペースXとファルコン9の登場で、最も大きな影響を受けたのは欧州だった。  欧州は1970年代から、当時米国が幅を利かせていた商業打ち上げ市場への参入をめざして、フランスを中心に「アリアン」というロケットを開発した。1980年には、そのアリアンを運用する会社として「アリアンスペース」も作られている。  その後、アリアン・ロケットは順調に成功を続け、現在は商業打ち上げ市場の中で、アリアンスペースが約半分のシェアを握っている。  アリアンは高い性能と信頼性を最大の売りにしている。たとえば現行機である「アリアン5」は現在までに85機が打ち上げられ、71機の連続成功を続けている。技術的な問題による打ち上げ延期もほとんどない。また、打ち上げの見学に来た顧客への手厚い接待、サービスも評判が良い。  ファルコン9が登場しても、アリアンはまだシェアの半分を握り続けることができているのは、こうしたファルコン9よりも高い信頼性と実績があることが大きい。また、アリアン5はファルコン9よりも大型のロケットであるため、より大きく、重い衛星を打ち上げられるという点もある。  欧州は当初、スペースXとファルコン9の存在を軽く見ていた。2013年ごろには、自身にとっての脅威は高性能ながら安価なロシアやウクライナ、中国のロケットであり、アリアン5の跡を継ぐ次世代ロケットの主となる競争相手も、これらのロケットであるという発言もされている。  しかし、アリアン5がもつ優位性が、決して磐石なものではないことは、他ならぬ商業打ち上げ市場でのし上がってきた欧州自身が一番よくわかっていた。  信頼性や実績は、打ち上げ数を重ねれば付いてくるものであり、実際にスペースXは着実に打ち上げ成功を重ね、新しい受注を取り続けている。また、ファルコン9より大型のロケット「ファルコン・ヘヴィ」の開発も進んでおり、今年中にも試験打ち上げを行うことが予定されている。  こうしたスペースXの動きを受け、欧州は対応を迫られることになった。
次のページ 
欧州の次世代ロケット「アリアン6」
1
2
3