photo by McSmit(CC BY-SA 3.0)
3つめは食物の中に入っているケースだ。代表的なものとして、気管支拡張効果があるため喘息の治療薬として利用されている以外に、食肉の成長促進剤として使用されていたクレンブテロールが挙げられる。現在は世界各国(欧米はもとより中国でも)餌への添加が禁止されている物質だが、中国ではまだ密かに使用する畜産農家があるらしく、2010年にはドイツ卓球協会所属の選手が同物質が検出されたことで出場停止処分になったが、選手らが遠征先の中国蘇州市内のホテルで食べた豚肉に薬物が残留していたと主張、その後、「食事由来の誤摂取」として処分は解除されたという一件がある。 また、同じく2010年に、ツール・ド・フランスの際に行われた検査で自転車ロードレース界のトップ選手であるアルベルト・コンタドールから同物質が検出。これもコンタドール側はレース期間中にスペインから持ち込まれた肉によって陽性反応が出たと主張したが認められず、2012年に優勝も剥奪されている。
こうした事例を見ると、「うっかりドーピング」は、選手は巻き込まれただけである意味被害者のようにも思えるが、競技者の視点で見るとそのような見方で「選手を擁護」する声には違和感を覚えるという声も少なくない。
とある競技のアスリートとして世界の舞台で戦ったこともあるA氏は語る。
「少なくとも競技している側は風邪薬や海外製のサプリメントがヤバイというのは周知の事実。ましてや世界のトップで活躍する選手で、選手以外のスタッフまでもがそれらのことに気がつかないとは考えられない。うっかりドーピングという言葉で選手の甘さを容認するような姿勢は、今後ドーピングを撲滅していく上で、決していい傾向だとは思えません」
築き上げた地位だけでなく、それまでの厳しいトレーニングやファンや仲間、チームメートの信頼や期待もすべて台無しにしてしまうドーピング。だからこそ、「うっかり」にはならないよう、アスリート自身も、そしてアスリートを取り巻く周囲も、アップデートされる禁止薬物にも目を通し、注意する体制が必要なのかもしれない。
<取材・文/HBO取材班 photo/
Tim Wang on flickr (CC BY-SA 2.0) 、
Dylan on flickr(CC BY 2.0)、
McSmit on Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)>