もはやブームは終了? アナログレコードの復活は本物だった【後編】
2015.05.15
世界的にアナログレコードの良さが見直されつつあるなか、日本でも同様の動きがあることは、ハーバー・ビジネス・オンラインでも今年2月に公開した「【アナログレコード復活の舞台裏】単なるブームじゃない!?」でお伝えした通りだが、その復活ぶりはさらに本格化しているようだ。
そんななか、毎年4月の第三土曜日に開催されている米国発のアナログレコードムーブメント「レコードストアデイ」が日本でも開催されてさらなる盛り上がりを見せたが、その前日となる4月17日夜には、また別のアナログレコードのイベント「Record People meeting」(rpm)が、渋谷で開催された。
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今回のイベント「rpm」の企画・運営を担当したアナログレコードのショッピングモールサイト「サウンドファインダー」を運営する新川宰久氏は、こう言う。
「確かにレコードは今、日本では旬であると言っても過言ではないでしょう。とはいえ、この動きはブーム的なところもあるんだと思いますね。だからこそ、気をつけないといけない。音楽をちゃんと楽しむことをわかってもらえる活動をしていかなければと気を引き締めているところです。アナログレコードが今後、ひとつの文化として定着していったらいいなあと思っています」
そのためには、やはり、若い世代にレコードの魅力を知ってもらうことが何よりも大切だと新川氏は言う。
「今、少子高齢化のなかで、お金を持っている熟年層にばかり目が行きがちで、何でもかんでも上の世代を対象にしたビジネスばかりが注目されていますよね。でもそれだけだと、若者にとっては新しいカルチャーであるアナログレコード文化が今後、育っていかないと思うんです。確かに今の若者は年収も減っているし、レコードは高いし、そんなにたくさん買えない。その代わり、レコード1枚1枚を大切に愛でるように聞くようになれば、音楽の楽しみ方ってまた変わってくるんじゃないでしょうか」
さらに、新川氏はこう続ける。
「60年代半ばくらいにレコード1枚が高くて買えなかった若者たちが、どうやったらたくさん聞けるかっていうことでジャズ喫茶などに通ったり、レコードを交換し合って聞いたりしていた時代があったわけですよね。もしかしたら、今のレコード好きな若者たちは、そこに近づいていっているのかもしれないと最近、感じるんですよね。アナログレコードをいい音で聞けるミュージックバーなど、新しいお店が次々とオープンしているんです。連日連夜、満杯というお店も珍しくなくなってきたようです」
この4月からFM横浜にて、アナログレコードを中心に選曲する番組「アナログ特区」をスタートさせた人気ラジオDJのピーター・バラカン氏は、このレコードブームをどう見ているのだろうか?
「うーん、複雑ですけどね。今、アナログレコードは勢いづいているところもあって、一部ではもはやファッションになってしまっているところもありますから。それはそれでいいことかもしれないけれど、ヘタにブームになってしまうと良くないですよね。ブームっていうのは、必ず下火になっていくものだから。必要以上に煽らず、コレがいいんだよっていうことが多くの人に伝わるような形で普及させていくようにするのがいいと思いますね」
アナログレコード文化の今後については、ピーター・バラカン氏は次のように語る。
「CDが売れなくなって、ダウンロードした圧縮音源でしか音楽を聞いたことがない人がかなり増えてきたと思います。それでも、若い人のなかにもアナログのレコードの音がいいと気づく人もいるんですよね。アナログ音源を一度聞いてみると、やっぱりいいなあ、と素直に感じる人は多いと思います。僕も最近、CDとLPレコードを同じ音源で聞き比べる機会が時々あるんですけど、やはり、確実にアナログのほうがいい音だっていうことを改めて感じるんですね。ただ、僕個人としては、音楽を聞くのはレコードでもCDでもデジタルファイルでも何でもいいと思うんです。みんなが“いい音楽”を聞くようになればいい。いい音楽を聞く人が増えてくると、次は『もっといい音で聞きたい』っていう気持ちにもなると思うんですよね」
音楽を楽しむためのひとつの選択肢として、アナログレコードをどこまで定着させることができるのかがポイントとなりそうだが、rpmを主催する東洋化成の萩原克治社長は、こう言う。
「日本唯一のレコードプレス工場としてやれるところまでやっていこうと続けてきたので、よくレコードは“会社の魂”などと言ってくださる方もいらっしゃいます。でも、そんなに格好良いもんじゃないんですよ。単なる稼業であって、ウチはたまたまレコードプレス屋だったから続けてきた。それだけのことです。そんなに大げさには考えていないのですが、それでも、21世紀にはなくなるかもしれないとされてきたアナログレコードが、今では復活してきたと言われている。その言い方が合ってるのかどうかはわかりませんが、以前にも増して本格的なものになってきているということは肌で感じています」
また、東洋化成では、ギリギリの生産体制をもっと強化しようと考えているのだと萩原社長は言う。
「今のところ、現存のプレス機をメンテナンスしながらフル稼働させて、なんとかギリギリのところで生産が間に合っているといった状況です。受注もまだこれから増えることになりそうですし、このままだと追いつかなくなるかもしれないので、もっと余裕を持って生産できる体制にできればと考えています。この先を予測するのは難しいことではありますが、アナログレコード文化が今後も定着していけるように頑張っていきたいですね」 <取材/文 國尾一樹>
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